海に生きる八幡暁の”足元サバイバル”#2~「水」を知ることから始めよう~

沖縄県石垣島を中心に活動し、世界の海を渡った数々の記録を持つ八幡暁(やはた さとる)さん。CAMP HACKの連載では、「足元サバイバル」というテーマで語っていただきます。身近にあるものや、身体一つを大きく使いながら生きている八幡さんの人生に触れていきましょう。第二回は石垣島の自然あふれる生活の中で気づいたことについて紹介します。


石垣島で暮らしているときに。


わたしは、沖縄県の石垣島に長く暮らしていました。見知らぬ海の世界へと足を運ぶためにトレーニングをしつつ、そこで学んだ生きる知恵を伝えようと、ガイドで生業を得ていたのです。生きることの実践は、命の水源を探しから始まり、食べられる食材を探し、火を熾し、塩作り、生き抜くことだけで充足する時間です。そこに、どれだけの学びがあるのかはわかりませんが、人にとって、大切であることには違いありませんでした。

そんなガイド業に喜びを得つつ、やりがいも感じていたのですが、ある時、ゲストの方にこう言われたのです。

「石垣、西表のような自然体験は、都市では出来ない。子供が遊ぶところもないんです」

それは一回に留まらず、何度も耳にするようになっていました。確かに、八重山諸島は、自然に恵まれています。美しい海があるだけでなく、海、山、川が残されています。そうですね、仕方ないですよね……。

都市で生活することと、自然の中で生活すること。


多くの人は都市で仕事をして暮らしています。子供も都市にいます。学習塾はあたりまえ。ブラスアルファで他の習い事もしている子が多いと聞きました。勉強にしろ、スポーツにしろ、あらゆることに明確な目的があります。多くの時間は、目的達成のための最短距離を走ることに費やされがち。それゆえに「忙しい」、そして数値化されないことが「無駄」という扱いになっているのではないかな……。

おそらく場所の問題ではない。コンクリートに囲まれていても、スラムでも、野生溢れる自然の中でも、どこに暮らしていても子供たちは半径2キロくらいの行動範囲の中で遊んでいたからです。

反面、都市生活で忙しい人でも、体験を通して知らないものに触れ、感動したり、恐れおののいたりしたい。自分は仕事で無理でも、子供にはそうした体験もして欲しい、本来の学びを感じてもらいたいとも願っているのです。

一方では費用対効果の効率化を狙うような暮らしと、もう一方では、個々が活かされる暮らし。両立することは可能でしょうか?

子供にとっても大人にとっても、どちらがハッピーなのか。これは誰にもわかりません。おそらくどちらでも良いのでしょうし、どちらでもないかもしれません。時代によっても、環境によっても変わってくることでしょう。一つ言えることは、親や先生、近所にいる周りの大人によって子供の生き方は、大きく変わるということです。

いろいろな旅をしてきて、感じたことがあります。「遊びを通して、個々が本能的に楽しいことを発見し、その体験がベースにあったうえで、次の成長があり、それが周囲の人間関係の中で生かされることこそが、本質的な喜びに繋がる」というようなこと。つまり、「時間」「場所」「共有」この三つが、どこに暮らしていても必要なのではないか。時間に追われ、孤立化して楽しげである場所は見たことがありませんでした。

現代の社会のあり方を否定するつもりはありません。明日、生きられるかわからない、生まれた子供が死んでしまう、生まれながらにして奴隷は一生奴隷、そうした時代と比べたら、今はどこに居ても天国のようです。この暮らしは、先人の知恵の蓄積のおかげです。

しかし、かつてはあった緩やかな時間の流れや、創意工夫しながら遊ぶ場所、集まる地域が都市生活では希薄になりがちであることが、何か満たされなことや、未来への不安を生み出しているのではないかと思うのでした。

それなら、わたしに何が出来るのか?

迷った末に出した答えは移住。

「改めて自分が都市生活をしてみる」でした。というものの、いったい何から始めよう……。

かつて白河法皇が、大きな権力を持ってしても思うようにならないものとしてあげたことが3つあります。双六の賽、山法師、賀茂川の水であると平家物語に書かれているそうです。これを聞いて、そうかと思いました。

都市においても「水」は必要です。が、沖縄では毎年、台風に翻弄されるように、洪水や大雨、津波、現代であっても水は思うようにならないものの一つです。都市の水辺こそ、失われた価値を取り戻すフィールドになりえるのではないか。圧倒的に人間優位な暮らしの中で、人の都合どおりいかないことを知ることが、より大切なものになりえそうに思えたのです。

八幡暁さんの第一回連載はこちら


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八幡 暁

オーストラリア~日本の海域を中心に海洋文化を探索する人力航海を2002年より開始。シーカヤックによるフィリピン‐台湾海峡横断(バシー海峡)など世界初となる航海記録を複数持つ。現在ツアーガイドや地域活動等、生きることをベースにした活動は多岐に渡る。

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