命のあたたかさを知る
「おとうさん!!! ぴよぞうがたまごうんだー」朝、幼稚園に行く前、4歳になる息子が叫びます。
ん……? ぴよぞう、メスだったのか!
家族みなの驚きでした。
「へんななきごえしてたから、なんだろなぁーってみてたらさ」
学校に行く前の忙しい時間、息子は座り込むニワトリをじっと見ていたようでした。手にはまだ人の体温よりあたたかい卵を大事に持ってやってきたのです。
息子にとっては初めての生まれたての卵でした。売っている冷たい卵ではありません。横並びで同じことを同じスピードで習って競わされる日常もありますが、これこそが大切なことじゃないかと、腑に落ちていくものがありました。
卵かけご飯に学ぶこと
「よし、このまま卵をあたたかいご飯にかけて食べよう!」
色は売っている卵よりはるかに薄い黄色でした。良い卵は濃い黄色の卵黄になるのかと思っていましたが、ニワトリが食べているものによって黄身の色も変わっていくのだと知りました。
ぷっくりと大きくふくれ、箸で触ってもなかなか黄身が崩れないような高級卵ではありません。どちらかと言えば厚さも薄っぺらな感じです。
それでも目の前の庭で、自分たちの食べていたものと同じものを食べて生み出されたあたたかい卵です。醤油を少したらして、かき混ぜます。
見た目はごく普通の卵かけご飯です。味は、正直、売っている卵と違いはなかったと思うのですが、息子は今までで一番美味しい! と目を輝かせていました。
いつもの食卓が違ったものに
たった一つの卵、それでも一生忘れられない卵となりました。
「食べることは、命をいただくことである。」
当たり前のことが、家の庭でおこなわれたとき、普段の食卓の見え方さえも変わってきたのです。