ブランドを立ち上げる前から、仕事で余った端材を使って自分専用の焚き火台を製作していた高久さん。最初に売り出したコンパクト焚火グリル『ちび火君』も、その内の1つ。
従業員10人の会社で、1億以上の借金があったから。完全に債務超過で銀行に見向きもされないし、同業者も「あそこの二代目が変なこと始めたみたいだけど大丈夫なのか?」社内からも「こんなもんで飯食えたら……」ってな感じ。しょうがないから自分たちで持ち出してなんとかやってたんだよ。
しかし、発売してから半年間は全く売れなかったそうです。
俺は職人だからさ、創るのは得意でも売り方が全くわからなかった。そしたらジュエリー店の店長やってた事がある嫁さんが「私やるよ!」って。「そうか、じゃあそっちは頼むよ」てなったんだよね。
奥様の助けもあり、笑’sがアウトドア雑誌で紹介されると、記事を見たショップから問い合わせが来たそう。さらに、趣味のブログのアクセス数は月10万PVを超えていて、少しずつ笑’sが認知されはじめたそうです。
アメリカ、ヨーロッパをはじめ、世界から問い合わせがくる!
『ちび火君』からはじまり『B-6君』『イット君』と従来になかった、コンパクトに収納できる焚き火台や薪ストーブを次々に製作。一時は、開発のスピードに現場や資金が追いつかなくなり、経理から開発禁止令が発動されたそう。
2012年には、全米最大のアウトドアギアの見本市「Outdoor Retailer」(略してOR)に夏と冬の両方に出展。埼玉の閑静な住宅街に工場を構えながら、アメリカ、カナダ、ニュージーランド、ウクライナ、アイスランドから注文が殺到。果てにはサウジアラビアから「薪ストーブを100台創ってくれ!」と問い合わせが来たそうです。
続いては、”あの”人気ギアの誕生秘話や、ギアへのこだわりについて、高久さんにお聞きしました。
ギアの裏話①『B-6君』が生まれたキッカケは?
『B-6君』が生まれるキッカケとなったのは、90ccの小型バイクで一年中キャンプをしている友人の一言。『ちび火君』を勧めたところ、「1㎏超える焚き火台だと、重くなって坂を上がれない!」と言われたそうです。
「嘘だろ!?てか、なに使ってるの?」て聞いたんだよ。そしたら、イギリスのMagic Flame(マジックフレーム)というブランドの焚き火台で、重さが600gだった。「そうか、わかった」って『B-6君』創ったんだよね。
『B-6君』でこだわったのは“扉”
わずか500gの重さしかない『B-6君』。『ちび火君』と同様に、こだわったのは扉付き投入口をつけたこと。
こだわったのは「やっぱり扉」だね。下から空気も入るけど、扉を開ければとそこから空気が入って、火が燃えやすくなるし。煙突効果を効かせたいときは、扉を閉めればいいし。あとは扉を開けた時、中で燃えている炎が見えるのもいいよね。
上に置いた鍋を移動させることなく炭や薪をくべられるのも、従来の焚き火台にはなかった機能。この扉もしかり、笑’sのギアは蝶番も溶接も使わずに、扉が開閉できたり折り畳んで収納することができます。もちろん、組み立てに工具などは一切必要ありません。
こういったギアの発想は、高久さん自身がキャンプをしながら、他製品の「壊れやすい」「納得いかない」と感じた部分を解消するために生まれたのです。
『B-6君』を創る前に、まずは収納袋を探した
ギアを創るとなると、まずは全体像と各パーツをイラストで描いて図面を引いて……そんなイメージがあります。
「図面はありますか?」て聞かれると困るんだよね。うちにはきちんとした図面もイラストも一切ないから。俺の頭の中にしか完成形がないから、その絵を頭の中でばらしていって、CADデータを創って組み立てていくんだ。だから試作は1回じゃ終わらないよね。
『B-6君』も100円ショップへ出かけた際に、奥様から「これくらいに入んないと」と言われた事から始まったそう。
最初に収納性いいのつくっちゃうと、笑’sのギアはそういうもんだ、みたいなイメージ付いちゃうからね。後には引けなくなったよ。
ギアの裏話②「チタン」は海外で人気!
一時しばらく発売中止になっていた『B-6君Ti』。現在は『Mr.B-6 All Titanium Grill plate setll』となって再販されています。
『B-6君Ti』や『Mr.B-6 All Titanium Grill plate setll』は、実は海外からの問い合わせが多く、とくにシーカヤックを嗜む人から「チタンが欲しい」と言われるそうです。軽量で、何もしなくても錆びないチタン。しかし、1㎏の単価はステンレスのおよそ10倍もするそうです。
しかもチタンは硬くて加工が難しいから、不良品が多く出ちゃうんだよね。経理さんが怒って、2015年に一時製造中止になっちゃった。
ギアの裏話③実は世界に1つだけ!?「四角い煙突」
冬のキャンプ場でみかける薪ストーブ。だいたい丸い筒状の煙突になっていますよね。しかし、笑’sの薪ストーブは四角い煙突なんです。しかも、本体も煙突も折りたためて収納できてしまう。これは世界を見ても「笑’s」だけではないでしょうか。
知人がとあるアメリカメーカーの薪ストーブを使っていて、その本体も煙突もとにかくぺラぺランだったのよ。手で巻いて筒状にして差し込むやつだったんだけど、巻いてたら手が切れて、血を流しながら「大変なんだよね~」って言うんだよ。「こんなんでいいのか!?」って思って創ったんだよね。
発想は「サンタクロース」から生まれた?
丸い筒状の煙突が主流の薪ストーブ。しかし、笑’sの薪ストーブはなぜ「四角い煙突」なのか。
そもそもなんでみんな煙突丸くするんだろうって思った。きっと色々理由はあると思うけど、とりあえず煙が抜ければいいんだろって。
サンタクロースが入る煙突は四角だし、四角にすれば折りたためるっていうのはわかってたから。
既存の概念にとらわれず「やりたいように創ってみる」というのが、高久さんスタイル。何度も試作品をつくり、フィールドテストを何度も繰り返し、本当に納得したものだけを商品化しています。
売れるとか売れないとかはあまり考えてないですね。だいたい雪の上でキャンプやる人がどれだけいるかっていう話。
だけど商品化するなら、まず自分が使って気に入らないとね。そうでない人とに勧められないでしょ。製作途中のブログを見ている人の方が、しびれを切らして「このままでいいから売ってくれて!」って言ってくる事もあったよ、でも俺は絶対に自分が納得できないモノは売らないから。