ダウン寝袋を国内で作っているのはナンガだけ

ジャケットは国内にもいくつか工場があるようですが、ダウン寝袋を日本で製造しているのは今や当社だけになってしまいました。
そう教えてくれたのは、ナンガの広報担当・米澤創さん。
とても興味深いお話なので、今回、特別に工場を見学させてもらいました。
こちらが本社 兼 工場

滋賀・米原市に建つ本社兼工場。2012年に新設した建物で、主に2階で製造されています。

こちらは2階の様子。ズラリとミシンが並び、寝袋とジャケットを製造しています。ベトナムや中国など布製品の製造が多い国からの研修生も多く、こちらで3年間、縫製技術を学んでいるそうです。
ナンガ製品がどう作られているのか、裏側を見てみましょう

まず、ジャケットの製造について。ジャケットは腕や後ろ身頃、前身頃、襟、ポケットなどいろいろなパーツに分かれています。そこで、最初にパーツごとに生地を袋状に縫いあわせ、その中にダウンを詰めておきます。その上で、決められた間隔にミシンをかけて仕切りを作ります(キルティング、キルト)。
あらかじめ仕切りを作ってからダウンを封入するという方法もありますが、ジャケットの場合は一定量のダウンを封入した状態で、手でダウンを均一に慣らしながら縫うほうがキレイに仕上がるそうです。
短いですが、筆者が動画を撮ってきました。
細かなパーツにダウンを封入しています。デジタルスケールでダウン量を計測できるのでムラがないんですね。

一方、ダウン寝袋のほうはある程度仕上げてから、一気にダウンを封入します。
このメッシュ布で内部のダウンを仕切っている

この薄いメッシュ状の布が、ダウンが移動しないための仕切り。あとからダウンを封入するのは、保温性を高めるためのボックス構造だからなんですね。
寝袋にはダウンをいれる袋がたくさんありますが、それぞれにダウン量が決まっています。それをひとつずつ正確にダウンをいれていくのですから当然手間はかかりますね。
ダウンではなく化繊の場合は?

ちなみに、化繊の寝袋はこんな感じ。中綿シートをシェルに縫い合わせていきます。
なお、寝袋作りはジャケットよりもパーツが少なく、直線縫いがメインなので簡単に思えますが、大きな布を扱うので難易度が高いんだとか。
細かな検品作業

縫い上がった製品をひとつずつ検品。糸の処理をして、目安となるチャコ(目印として使うチョーク)を水で落とすほか、余分なダウンを吹き飛ばしてきれいにしていきます。

1階と2階は階段だけでなく、穴でもつながっていました。検品が終わった製品は、ここから1階のバスケットに移動し、出荷を待ちます。動きに無駄がありません。
以前は、1着分に5時間かかっていた

1階には大量の生地のストックと大きな裁断機がありました。裁断機は布を何重にも重ねて、白いシートをかぶせて空気を抜くことからスタート。空気を抜いて密着しているため重なった布がズレることなく裁断できます。
機械が切る前に、何カ所か生地をパンチしています。これは縫い合わせる際の目印になるとのこと。縫いしろは1.5cm。万一、ズレたら縫製からクレームがあります。布がズレたら傷が表に出るなどうまく作れませんから。ここはていねいに。今は数分で終了しますが、昔は型紙通りに切り分けるだけで、1着分に5時間かかっていたそうですよ。(米澤さん)
そうして切り分けられた生地は、パーツごとにまとめられています。これが2階の縫製部門に届けられるんですね。
ダウンの違い

最後に、ダウンについて教えてもらいました。
ダウンの品質は、ダウンボールの大きさによって異なります。左が一般的なダウンで770FP、右がシルバーグースダウンで930FP。毛足の長さがちがいますね。なお、超撥水ダウンは、湿気によるダウン特有のにおいを軽減するという効果もあるそうです。

大人がすっぽり入るような大きな袋にダウンが入っていて、1袋は約10kg。ちなみに、もっとも高級なのはアイダーダックという自分の胸毛を巣穴に敷き詰めている鳥のもの。
巣穴に敷き詰められたダウンを手で採取しているそうで、1kg数十万円となるそうです……!
寝袋のプロから教えてもらう豆知識

米澤さんによると「長く使っているとダウンがへたってきた」という相談が多いのですが、大抵の場合は洗濯して汚れを落とすことで回復するとのこと。
ダウンを包む生地は、表側に撥水加工を施し、内側(肌に触れる面)は通気性を重視していることが多いので、裏返しにして洗濯ネットにいれると内側にあるダウンまで洗濯液が届きやすくなるそうです。
また、「ダウンの油分が抜けるから強い洗剤はダメ」とよく聞きますが、ダウン自体はご家庭にある液体中性洗剤で洗っても大丈夫とのこと。これは勇気が出ます。
「国産の寝袋」という強みとは?
アウトドア専門店にはいろいろなダウン製品がありますが、そのほとんどが海外の工場で作られています。海外生産によって手にしやすくなったのはうれしいのですが、万一、トラブルがあったときに対応しづらいのも事実。とくに、ダウンを包むシェルに撥水加工を施しているものは、5〜10年で加水分解を起こしてしまいます。防ぎようのない現象ですが、国内生産しているナンガなら生地の交換やダウンの追加などのオーダーにも素早く答えてくれるそうです。
ますますナンガ製品が好きになる
ナンガ製品には、お値段以上のクオリティが詰まっていました。2018年、ナンガはアウトドアデイジャパンほか全国各地のイベント会場にやってくるとのこと。製品に触れ、開発秘話を聞けるチャンスです。ブースを見つけたら立ち寄ってみてください。
ナンガ公式サイトはこちら
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