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そのレジェンドギア、表彰していいですか?

日々進化を遂げるアウトドア業界。たくさんの新商品が生まれては、時代の流れとともに消えていきます。
そんな中、発売から数十年経っても姿を変えず、いまだに多くのキャンパーから絶大な支持を集める「レジェンドギア」が存在しています。

誰もが認める逸品の裏には、キャンパーを魅了する開発ストーリーが眠っているはず。
本企画はCAMP HACK編集部が、「レジェンドギア」の開発者にスポットライトを当て、日頃の感謝をこめて“勝手に”表彰する連載です。
▼過去の表彰はこちら
テンマクデザイン「サーカス TC」

今回のレジェンドギアは、キャンプ場で見かけないときはないほどの大ヒット作、テンマクデザインの「サーカス TC」です!
設営が簡単なワンポール構造やTC素材を、日本のキャンプシーンでより身近な存在にし、ストイックでULなイメージが強かった、ソロキャンプ自体のハードルもグッと下げてくれました。
2015年の登場から10年。現行モデルは「サーカスTC+」にアップデートし、派生モデルも数多く展開する人気シリーズへ成長。そのルーツたる、まさにレジェンドギアにふさわしい名作です!
開発秘話を教えてくれたのはこの人

根本 学さん
WILD-1事業部 商品部次長。「テンマクデザイン」ブランドの立ち上げ、「サーカス」シリーズの企画・開発に携わる。
ワンポール×TC素材の可能性に挑む
──はじめに「テンマクデザイン」について教えてくだい
根本さん:まず「テンマクデザイン」は、アウトドアショップである「WILD-1」のPB(プライベートブランド)です。
2011年の春に、私ともう1人のメンバーで、ブランドを立ち上げ、それ以来、基本的に商品開発はずっと私1人で担当してきました。
ブランド発足のきっかけは、インターネットショッピング、ECの台頭ですね。
そこで、アウトドアショップの実店舗としての存在意義を再考し、「WILD-1」でしか買えない商品を作ろうと、自社で商品開発をおこなうことになりました

ただ当時、国内のスポーツ量販店などのPBは、まだチープなイメージが強く、最初はWILD-1のPBとは一切謳わないブランディングでスタート。
なので、独立したブランドという誤解も生じ、「パンダテント」や「ワーカーズオカモチ」などがヒットし出すと、全国の代理店さんから取り扱い希望の問い合わせが殺到したことも。
今では一般のお客様にも、WILD-1のPBという認知がかなり浸透したかと思います
──「サーカスTC」が誕生した経緯は?
根本さん:実はブランド立ち上げ当時、既にシルナイロン製の「サーカス」テントを販売していました。
だけどそれは、あくまで登山の際に、みんなで食事をしたり集えるシェルター。五角形でワンポールという形こそ同じですが、1回りも2回りも小さいULなテントでした

出典:出典:tent-Mark DESIGNS*画像は「ムササビウイング」
ちなみに、現行モデルに継承した「サーカス」の名前は、「輪・人の輪」という語源に由来しています。
その後、2012年に「ムササビウイング」というTC素材のタープを発売。そこで、TCという素材の認知度がある程度高まっていきました

コットスタイルを流行らせたのも「サーカス TC」の功績だろう
そして、それまでは「インナーテントの中でマットで寝るスタイル」が一般的でしたが、その頃、「フロアレスの土間でコットで寝るスタイル」が台頭し始めて。
そこで、コット寝スタイルに最適で、しかも設営が簡単なテントを開発したいと考え、シェルタータイプのワンポールテントをTC素材で作ってみることにしました
設営簡便性と快適性のバランシングが肝に
──TC素材を採用したのはどういう意図?
根本さん:シングルウォールのシェルターって、朝起きたときの結露がとても不快で。風が強い日なんかは、テント内で結露の雨がバーっと降るじゃないですか。
「サーカス」もインナーテントのないシェルターなので、結露を吸収するTC素材が最適だと思ったんです

火の粉で穴が開きにくいメリットについては、当時はそこまで意識しておらず、とにかく結露対策が最優先でした。
また、海外ブランドより生地の値段もある程度抑えられると思い、、挑戦してみることにしました
──商品開発の際、1番こだわったポイントは?
根本さん:やっぱりサイズ感ですね。
コットが入れられて、立って着替えなんかもスムーズにできて、1人用のファニチャーを入れても狭すぎず広すぎず、シェルター内で完結できるサイズ感

また当時、他ブランドのティピー型テントは、ワンポールだけどペグダウン箇所がかなり多く、もっと設営を簡単にしたいという思いがありました。
五角形なら基本のペグダウンが5箇所で済み、設営が非常に楽なことが、初代サーカスで分かっていたので、そのまま踏襲したわけです

設営の簡単さからワンポールテント自体の認知度も高めた
さらに、前後2箇所のドアパネルをファスナーで開けられるようにした点も、既存のティピー型テントにはあまり見られなかった機能。
通気性を確保や、レイアウトの自由度が高さも、お客様から好評なポイントの1つです

第一弾は、発売当日に一瞬で完売!
──発売当初の反響はどうでしたか?
根本さん:これが、発売当日に一瞬で売れてしまいました!
あらかじめ、FaceBookやホームページなどで、ワンポール型の新しいテントを何月何日に発売しますという、予告情報はリリースしていたんですが……

根本さん:やはり、TC素材の認知度とコット寝スタイル需要の双方の高まりと、タイミングが一致したのが大きな要因だったかと思います。
海外ブランドのワンポールテントに憧れる人が多かった中で、「同じTC素材で、この値段(29,800円/2015年当時)」という価格設定も、かなり影響したと思います
──ゆったりサイズだが、ターゲットは最初からソロ?
根本さん:はい。ちょうど当時って、団塊ジュニア世代の方の子育てが、ひと段落したタイミングだったんですよ。
子どもとは一緒にキャンプに行かなくなり、でも、ファミリーキャンプスタイルの、ある程度広いテントでゆったり過ごす快適さも知っていて

ソロ用のギアを並べてもまだまだ余裕
根本さん:山系のULなスタイルは快適性が低い、かといって4〜5人用テントを立てるのは面倒だし……。
というところで、1人でも設営が簡単、かつ、ゆったりソロに最適なサイズ感という点がマッチすると考えました。
そこでやはり、お父さんやお母さんが自分の自由にできる金額というのも意識し、価格設定にも反映しています
ユーザーニーズと共に、成長し続けるシリーズへ
──発売から10年、改良した点はありますか?
根本さん:はい。TC素材って、防水性において織りの密度がすごく大事なんですよ。
雨が漏らないことが大前提で、密度を高めれば防水性は高まるけれど、重さが増してしまいます。
そのバランスを追求しながらテストや改良を続け、現行モデルの生地は4世代目。1cm四方に何本糸を使って編むかや、デニールなども変えてきています


あとはジッパーですね。万が一、結露で凍ってもバリバリ開けられる「ビスロンジッパー」を採用したこともあったんですが、パーツが歯抜けすると修復が難しくて。
現在は、大きめのダッフルバッグなどに使われる「コイルジッパーの10番」という太いタイプを使っています。引っ張り強度が高く、故障も少なくて秋冬も安心です
──「サーカスTC」を経て、派生モデルがたくさんあります


根本さん:まず、ソロ〜ビッグまで4サイズを展開しています。
さらに形状やスタイルで、TC+・ST+、DX+、コンフォート、BIG・BIG+の4種に分かれます。
例えば「BIG」は、「母子キャンプのときに、1人でも無理なく設営できて、子どもと過ごすのにちょうどいいサイズのテントが欲しい」というニーズが起点になっています。
なので、サイズUPしても1人で立ち上げられるか、あまり力のない女性スタッフが実際にテストしてからリリースしました

ペグを打って、あとはポールを入れるだけ。最初に設営したときは、その簡単さに驚いた
ただ、サイズが違っても構造も本体のペグの数も同じで、設営の手間はあまり変わりません。
なので、実際は「BIG」も「ミッド」 もソロで使う人が多いです(※BIGのみ張綱が+5本)。
結局それぞれの快適人数は、お客さまのキャンプスタイル次第。パッケージにも商品ページにも、特に何人用という記載はしていないんです。
メーカー側で規定するのではなく、ご自身のスタイルに合わせて自由に選んでいただければと考えています
人生を豊かにするアウトドア体験を届けたい
──ブームを経た、今のキャンプシーンをどう考える?
根本さん:キャンプをする人って、大きく2層に分けられると思うんです。1つはキャンプ自体を目的として楽しむ層、もう1つは、釣りや登山などのアクティビティのための手段とする層。
そして、コロナ下のキャンプブームを経て増減したのは前者の、キャンプ自体を目的とする層ですよね。

つまり、アウトドア全般を純粋に楽しむ人たちは、ブーム以前も以後も一定数いるし、まったく変わりがない訳です。
なので私自身は特に、アウトドア文化の衰退といった危機感は感じていません。キャンプという行為そのものは無くならないし、普遍的なものだと考えています
──今後の商品展開への思いや展望は?
根本さん:「サーカスTC」の発売から10年が経過し、ターゲット層だった団塊ジュニア世代の中には、キャンプを引退する方もちらほら。
そして今度は、Z世代やα世代がキャンプに参入し始めています。けれど、彼らが考えるアウトドアというのは、団塊ジュニア世代とは微妙な違いがあると思っています。
なので、今後は20代30代が考えるアウトドアというものも、しっかり理解して商品開発に反映させていく必要性を実感しています

根本さん:また、アウトドアを通じて人生が豊かになる経験を、1人でも多くの人に届けたいというのが、WILD-1の基本的な考え方です。
そして、今キャンプをしている方って、やっぱり、子どもの頃にキャンプに連れて行ってもらったりとか、幼少期にアウトドア経験がある方が多いですよね。
なので、お子さん向けのアウトドア体験イベントや企画、ボーイスカウトへの寄付など、今後もしっかり継続していきたいですね
永遠定番たる一幕をありがとう!

ワンポールテント×TC素材の可能性をとことん追求し、今でこそ、当たり前になった「ゆったりソロスタイル」や「コット寝スタイル」の普及にも、多大な影響を与えた「サーカスTC」。
また、時代の流れやニーズを敏感にキャッチするだけでなく、その先の新たなスタイルの提案までも、意欲的に取り組む姿勢こそが、一大人気シリーズの展開に繋がったのですね。
そのルーツたる「サーカスTC」はやはり、THE・レジェンドギアでした!
貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました!
テンマクデザイン サーカスTC+
サイズ(約) | 442×420×(H)280cm |
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収納サイズ(約) | Φ24×65cm |