最終型としての「kohaku」に至る変遷とは?
小杉さん:「kohaku」はすごく複雑な構造に見えるんですが、設営自体は非常に簡単。
まず、ボトムの4箇所にペグダウンしてメインポールで立ち上げると、四角錐のピラミッド状になります。
この時、本体の内壁と外側のバイザー(軒)部分の裾がビルディングテープで連結されているので、連動して自然と内壁のポジションも定まります。
ワンポール + 拡張ポール式のひとつの答え
小杉さん:ボトムの4隅にペグダウンしてメインポールでピラミッド形状を立ち上げ、エクステンションフレームで空間効率を高めるという構造は、ゼインアーツの最初のモデル「ゼクー」開発時に生まれました。
出典:ZANEARTS ※画像は「ゼクーM」の設営説明図
小杉さん:そこから「これ、もしかしたらもっと色んな展開ができるんじゃないの?」という着想に至ったのが、可変するギミックでさまざまな展開を楽しめる「ギギ1」や「ギギ2」。
さらに、それを一方向に伸ばすことで2ルームにしたのが「ロロ」でした。
小杉さん:ここまでは、構造にフォーカスした進化の方向性だったんですが、テントに求める要素ってそれ以外にもありますよね。
設営の簡便さや、雨天時や気温の変化など天気や季節の影響下での快適性だったり。1日のなかでも、日中や就寝時などのシーンに応じて、パネル開閉でどんなふうに調節できるかなど、時間的な要素もあります。
そして、テント内の空間にいながら美しい自然を眺められるなど、いかに自然を身近に楽しめるかというのも追求したかった。
小杉さん:ただそれは、「ゼクー」を作ったときから追い求めてきたけれど、はっきりとしたビジョンではなく、後続モデルの開発を経て次第に明確になり、「ロロ」あたりで何となく見えてきた。
その理想とする形と付加させたい要素を具現化したのが「kohaku」です。
実際に「kohaku」がプロダクトとして完成した時に、自分は多分ここを目指していたんだと思えました。あくまで自分のなかで、ですが、ひとつのアンサーがカタチになった。
小杉さん:そして、キャンプ未経験の方からベテランの方まで、より幅広い方に使っていただきたいというほぼ日さんのニーズもありました。
それなら複雑な構造や凝ったギミックの追求ではなく、もっとシンプルに、より自然を体感できるテントがマッチするだろう、という流れでコンセプトが決まりました。
そのコンセプトと、僕がテント開発の中で解決したかった部分が上手く噛み合って、「kohaku」が出来上がったということですね。
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可変しないバイザーが構造の肝
画像は本体ドアパネルクローズ時
画像は本体メッシュドアパネルクローズ時
小杉さん:「kohaku」は、パネルの跳ね上げでさまざまな形に可変するテントではありません。
そこに時間を使うのではなく、ただゆっくりと自然を感じながら過ごしたり、食事や読書をしたり、そういう時間を楽しめるテント。
小杉さん:それを実現しているのがこのバイザー(軒)で、今までのテントにはなかったひとつの大きな機能です。内壁があって、さらにその外にバイザーがあるのが新しい。
テント内の空間にいながら自然をより身近に感じられる、構造の肝になっています
小杉さん:具体的に言うと、強めの雨が降ってきた時でも、大きく張り出したバイザーが雨風を防いでくれるので、メインドアパネルはずっと開けたままで自然の風景を眺められます。
リビングを拡張して過ごす日中
黄色線:内壁ドアパネルとバイザーの境界(ビルディングテープ部分)
小杉さん:バイザーは跳ね上げたままで可変しませんが、ドアパネルを開けるだけでリビングを拡張できます。とくにギミックがないというのが新しい提案ですね。あんまり考えなくていいんです。
別売りで発売予定のインナーテントもあるんですが、これを吊るした状態でドアパネルを閉じると、4人家族のリビングとしては結構狭いんです。
小杉さん:なので、日中はドアパネルを開けて、テーブルやチェアをバイザー下のスペースまで前に出していただければ、リビングスペースが一気に拡張します。
夜は、ファニチャーを内側へ入れてドアパネルを閉じて寝る、という風に使い分けていただければ!
小杉さん:特段のギミックはないですが、日中は常にドアをオープンにできる。
風を感じたり、雨でも外の風景を眺められたり、常に自然を身近に感じられながらも、ある程度の快適性はキープされているという、このバランスの良さが魅力なんです
yozoraだから実現した、星空を望む寝室
小杉さん:もうひとつの大きな特徴として、yozoraというブランドならではの唯一無二の機能が。それが、この背面の上下2段の開閉パネルです。
寝ながら星空を眺められる窓
小杉さん:この後ろ姿がすごく好きで。自分のなかで、このテントが一番美しいと思うかな。ここから見える感じがすごく綺麗なんです。
小杉さん:この上部の大きな窓は、インナーテントの窓とも連動していて、寝転がると真上が見えるんですよ。
もともとはメッシュパネルは付いてなかったんですが、ほぼ日さんからのオーダーで、「ここから夜、虫を防ぎつつ星空を見たいからメッシュにできないか」と言われて。
小杉さん:僕自身はプロダクトの設計に関しては割と保守的な部分があって、今までやってきたことのない技術には当然リスクも伴うので、あまり積極的に投入してこなかった。
だからこの窓に関しても、角度的にも雨が入りやすいし、どうしても構造が複雑になるので、実はあまりメッシュを付けたくなかったんです。
小杉さん:最終的には、ドアパネル側に“返し”を付けることで、メッシュパネルとの二重構造を実現しました。
雨が上から流れてきても、この“返し”にぶつかってちゃんと下へ落ちていきます。シーム加工も施しており、寝ながら星空を眺められるメッシュパネルを備えつつ、ドアパネルでしっかり雨は防ぐ仕様に。
これは、ほぼ日さんとのコラボレーションならではの「kohaku」の大きな魅力となっています
遊び心を感じる小さなドア
小杉さん:さらに下段のドアパネルですが、こういう小さな開口部って、とくにお子さんなんか出たり入ったりして遊ぶのが好きですよね。
せっかくこれだけの高さもあったので、ドアパネルとして出入り可能な仕様にして、出入りの邪魔になるバイザーはこの部分だけあえて外しました
小杉さん:また、この下段ドアパネルは、ゼインアーツの特徴でもある内側へ切り込む角度になっているので、そもそも雨も入りにくいんですよ。
それもあってこの箇所だけバイザーを外したんですが、結果的に「kohaku」の全体的なデザインのアクセントにもなっています。
2人用サイズの「kohaku duo」はドアパネルの高さが足りず、残念ながら出入りはできません。
【まとめ】原点回帰、からの新アプローチが秀逸な「kohaku」
ゼインアーツ歴代モデルの技術を踏襲しつつも、構造的進化とは別のアプローチによる新たなテント「kohaku」。まさに「ゼクー」から「ロロ」を経た、最終型と呼ぶに相応しいテントでしたね。
そして、「いかに自然を感じながらシンプルに楽しめるか」という、ある種、キャンプの原点回帰的な課題提起がありながらも、“可変しないバイザー”という静的な機能で、快適性もバランスよく実現しているのが秀逸です。
日中と就寝時など、シーンに応じた拡張性もバイザーに内包。雨天時でも動的なアクションなしに、ドアオープンのまま常に身近に自然を感じることができます。
また、前面に向かって幅が広がる台形フォルムが、より自然の眺望に広がりを与えてくれるのも大きな魅力のひとつです。
さらに、2つのブランドの共創でこそ生まれた、yozoraならではの背面部ウィンドウはやはり圧巻。
インナーテントで寝ながら星空を眺められるという唯一無二の特徴も加わり、ビギナーからベテランまで、幅広いユーザーがキャンプと自然を楽しめるテントになっています。
欲を言うと筆者個人としては、背面ウィンドウに透明なTPUパネルなどのオプションがあれば、冬の寒い時期でも星空を眺められるな……と感じました。ぜひ今後のオプション展開に期待したいところです!
yozora × SABBATICAL × ZANEARTS合同テント体験会が開催!
予約開始はもう少し先の2024年1月頃を予定している「kohaku」。2024年1月下旬には、東京・大阪でそれぞれ「kohaku」、「kohaku duo」を体験できるイベントも開催予定とのこと。
なにやら、スペシャルなゲストを迎えてのトークもあるようですよ。気になる方は下記特設サイトから詳細をご確認ください!
CAMP HACK編集部では、今後も最新情報をお届けするべくさらなる展開についても追っていきますので、ぜひお楽しみに!