文/荒井裕介
衣食住空間のレイアウト
居住空間を作る際には、何をどう配置するかのレイアウトが重要。細かな部分まで、すべての配置には快適に過ごすための理由がある。
どう自然を使うかではなく、どう適応するかが大切
狩猟には、短期間で移動を繰り返しながら行う方法と、一ヵ所に拠点を決めて長期滞在しながら行う方法とがある。後者の場合は、居心地のいい居住空間を作り込むことがある。居住空間のレイアウトを決める際にもっとも大切にしているのは、火との関わり方である。狩猟期間は必然的に冬期になるため、しっかりと寒さを凌げることと、スムーズに煮炊きができることの両方が快適に行えなければならない。
乾燥した山の中で火を扱うので、安全性の確保も重要になる。焚き火については本誌の216 頁にて詳しく触れているが、必要最低限の大きさの火を操れる環境を整えることが重要だ。基本的にテントは使用せず、タープを張って、その下で焚き火をすることが多い。複写熱をうまく利用してタープ内を暖めるためだ。また、積雪時や低温下では地面に体温を奪われるため、倒木と落ち葉、なめした毛皮などでベッドを作り、快適な睡眠環境を整えることもある。
テントを使わないタープ泊は荷物を軽量化できるメリットもあるのだが、長期間同じ場所にタープ泊で滞在していると動物達の警戒心が薄れてベースキャンプ近くに寄ってくることがある。それに壁のないタープは、自然と共にあるのだと思える感覚も好きだ。調理空間の製作方法は、宿泊場所によってさまざまだ。枝を組んで自在鍵やトライポッドを作ったり、ワイヤー類を使うこともある。
どのような獲物を得られたか、それをどう調理するか次第で、調理空間が決まる。石を敷いたり、木枠を組んだり、熱を効率よく利用するためのウィンドスクリーンなども設置するといい。
①荷物、ザック
②焚き火
③寝床
④銃、猟具
⑤靴
⑥クッカー、食器類
⑦薪
⑧防風壁など
居住空間は必要最低限でよい。合理的な配置と整理整頓が快適さの鍵になる。冷気の流入を最小限に抑え、複写熱を最大限に活かせればまるで自宅のように快適な空間を作り出せる。
衣食住の装備
自由な発想と必要最低限の道具さえあれば、それでいい。必要な道具と快適さは森が与えてくれる。
道具はあまり持たなくても自分で作り出せばいい
僕の装備は決して多くない。クッカー類を充実させていることを除けば、他はかなり軽量なハイキングの装備にナイフ類を追加した程度のラインナップとなる。ライトは基本的に使用することはほとんどないのだが、あるととても役立つことがあるので携行している。ウエアも必要最低限のものだけでいい。
これだけの道具でも快適に過ごせるのは、豊かな森があってこそのこと。その他に必要なものは、森の中にある素材で作り出せばいいと考えている。使い慣れた道具さえあれば、あとは森が必要なものを与えてくれる。本当に贅沢なキャンプとは、家を持ち歩くのではなく、どこでも家のように過ごせることなのだ。
使い方は無限大【パラコード】
獲物を吊るしたり、タープを張ったり、装備を留めたりと、なにかと活躍。長さは30m を常備。ほとんど切ることはない。結び方やまとめ方次第で幅広く使える。おすすめはしないが懸垂下降も可能。太さ3~4㎜。
明るさと汎用性重視で選ぶ【マグタイプライト】
光量とコンパクトさで選ぶ。バンドを付ければヘッドライト、グローブを付ければランタンになる優れもの。夜間、瞳の反射で動物の生息を確認するには、ある程度の光量が必要になる。
かさばる寝袋は圧縮袋へ【厳冬期用大型シュラフ】
暖かなシュラフは冬の定番。嵩張るのでコンプレッションバックに入れ、コンパクトにまとめて持ち運ぶ。厳冬期でも、焚き火なしのオープンビバークに対応できるスペックを持つモデルを選んでいる。
汎用性と携行性を兼ねる【マルチチューブシェルター】
モンベルのタープのサイズと細かな仕様を変更し、両開きのスタッフバックを採用。より実用的になった。「マルチチューブシェルター荒井カスタム」と勝手に命名している。ツェルトとしても使えるスクエアタープだ。
パッカブルを愛用【撥水ダウンジャケット】
スタッフバックが別になっていると煩わしいので、パッカブルタイプを選ぶ。撥水ダウンは濡れても乾きが早く保温性も落ちにくいのでとても使い勝手がいい。
足先の冷えは長期滞在の敵【ウールソックス】
濡れても保温性が落ちないウール製。低温時は二枚重ね履きにする。沢を渡ることもあるので、予備は必ず持って行く。ウール製はバクテリアが発生しにくいので臭いも気にならない。
停滞中の必需品【ダウンパンツ】
停滞時にダウンパンツは必須。とくに待ち伏せ猟では、腰回りが冷えるとトイレの回数が増えてしまう。テントサイトや待ち伏せ時には、必ず着用するようにしている。
なるべく天然素材のものを【食器類】
しゃもじ以外は自作の食器。食事をおいしく食べるなら木製がいい。また軽いので持ち運びも楽。難点を挙げるとしたら、スタッキングができないことくらい。
調味料は必携のアイテム【スパイスポーチ】
常備している必要最低限の調味料を入れる自作ポーチ。これに入らない量はできるだけ持ち込まない。獲物によって追加する場合もある。運搬中に音がしにくいよう、革製を愛用している。
金属製なら火箸にもなる【箸】
金属製の中空の箸を愛用している。おき火をいじったりするのに大変便利だ。汚れも落としやすく、丈夫で壊れない。中空なのでとても軽く、携行製にも優れているので気に入っている。
料理をするなら必需品【カッティングボード】
樹齢400 年の松材で作られたカッティングボード。抗菌作用も強く、まさにアウトドア向きのスペックだ。乾燥用に革ヒモを付けておくと便利だし、不用意に地面に置かずに済むので衛生的だ。
直火OK でタフなやつ【チタンマグ】
テラノバのチタンマグを愛用。小型で大変丈夫なうえに軽量。直火でも使えるタフさに惚れ込んだ。チタン製は熱伝導が悪いので、このくらいのサイズが一番使いやすい。
予備を含めて2本常備【ファイヤースターター】
ライターは使わず、これで火を起こす。気温や天候に左右されず、安定して着火ができる。セットのストライカー(火打金)は使わず、ナイフの背で着火を行うことが多い。
抗菌作用の高い金属製【銅タワシ】
銅イオンの効果で雑菌の繁殖が抑えられる。クッカーに入れておけば、クッカーにもイオンが作用して同様の効果が得られる。汚れ落ちも抜群だ。
山行スタイルで使い分ける【スキレット&フライパン】
鋳物のスキレットや鉄製のフライパン、アルミスキレットの三種。獲物や山行中の献立によって、持って行くものを選択する。どれも特性が違うが共通点は料理が楽しくなることだろう。
拠点作りから薪割りまで【ハチェット】
刃物類は用途別に準備した方がいい。大まかな作業をするならハチェットは優れた性能を発揮する。薪割りやシェルター作り、獲物の解体など、幅広く使えるのが魅力だ。
焚き火のド定番【ビリー缶】
ビリー缶タイプのクッカーは、焚き火料理器具の主役だ。僕の愛用品は「焚き火缶」の小と中。一人ならこれで十分。アルミクッカーは使い勝手がよく、長年愛用している。
怪我防止のためにも必須アイテム【レザーグローブ】
モンベル製のレザーグローブはしなやか。射撃時のほか、焚き火でも使いやすく、スマートフォン対応なので外さずに作業ができる。アンダーにウールグローブも併用している。
用途別に使い分ける【刃物類】
ノコギリ、シースナイフ、フォールディングナイフ。料理や軽作業、獲物の解体、火熾し、薪作りと刃物の出番は多い。用途ごとに得意とする刃物を選択することで、快適に作業ができる。
狩猟の装備
続いて、狩猟に必要な道具について紹介しよう。銃器の所持には、それぞれ異なる許可が必要となる。
猟具の取り扱いは許可と責任を持って
僕は第一種狩猟免許を持つので、銃器による狩猟が許可されている。空気銃も対象だが、散弾で事足りてしまうので、散弾銃とライフルしか所持していない。ライフルは散弾銃の所持暦が10年を経過しないと所持を認められない。僕が所持するのは、単身ボルト式のハーフライフル銃「マーリンM512」とレミントンの自動銃「M1187」、ウィンチェスターの上下二連銃だ。これらがあれば、標的射撃から、鳥、大物猟のすべてがこなせる。
散弾実砲は単身ボルト式と自動銃の替え銃身にハーフライフルがある。サボット弾とその他の銃身とで、上下二連のように散弾を使っている。サボット弾とは、サボットスラッグと呼ばれる大物猟用の単弾で、ハーフライフル専用の弾丸だ。ザラ弾とは、鳥猟に使用する散弾装弾のことを指す。銃器や実砲の運搬所持には、必ず初期許可が必要になる。射撃実砲と狩猟用実砲は装弾の種類が異なるので、用途に合わせた選択が必要だ。銃の所持は一銃一許可なので、本人以外の何人たりとも触ることはできない。
また、狩猟者登録証も出猟の際には必携だ。大日本猟友会にて定められたオレンジの帽子とベストを着用することも推奨されている。着用義務はないが、誤射などの事故を未然に防ぎ、周囲にハンターであることを示すためにも着用したい。弾丸は運搬方法などによって、一度に所持できる個数が決められている。法令に従い、所持運搬すること。指定の猟場以外では、銃カバーの着用も義務付けられているのでお忘れなく。
服の色も重要
帽子とベスト、狩猟者登録票は大日本猟友会で配布される。有害駆除従事者は名札も付ける。狩猟時には義務ではないが、できるだけ着用しよう。その他のウエアを着用する場合は、視認性の高いものを選ぶよう心掛けたい。
大物専用銃【ハーフライフル】
銃身の半分までライフリングが切られ、直進安定性を狙ったタイプの銃。サボットスラッグ専用。僕の愛用銃は「マーリンM512」。単身ボルト式の銃でシンプルな構造で故障も少ない。機関部が低温でも凍りにくいので山中泊でも安心して使用が可能で信頼性が高いのが特徴。
鳥類の狩猟に使用する【散弾銃】
写真の銃は上下二連銃だ。そのほかに自動銃も使うが、上下二連はトラブルが少ない。スラッグ弾から散弾まで使用できるオールラウンドな銃だが、スラッグの命中精度はハーフライフルより劣る。狩猟用と射撃用では、仕様が異なるが慣れれば同じだ。
銃弾にも種類がある【銃弾各種】
右から5号の散弾、同じく5号のマグナム弾、サボットスラッグ弾。装弾の種類によって獲物や猟場も変わる。対象の獲物に適した装弾を使用したい。銃砲店に相談すれば適した弾を教えてもらえる。
常に携行が必要【狩猟者登録証及び銃砲刀剣類所持許可証】
銃を所持するには所持許可が必要で、銃と共に携行しなくてはならない。狩猟には、所持許可に加えて狩猟者登録証も必要になる。どちらが欠けても違反になるので、出猟時には細心の注意が必要だ。確認と管理は習慣にしてもらいたい。
獲物の生態も掲載。荒井裕介著『サバイバル猟師飯』はこちら!
CAMP HACK×荒井裕介氏のサバイバル連載はこちら