SOTOがつくる燃焼部が、海をわたりパリへ
1978年の創業以来、40年以上にわたり「安全な炎」を作り続けてきた新富士バーナー株式会社。
同社が展開するSOTO(ソト)といえば、キャンパーであれば知らない人はいないと言っても過言ではない有名ブランドですよね。
シングルバーナーの「レギュレーターストーブ ST-310」や、「スライドガストーチ」などがとくに人気です。
そんなSOTOの技術が、パリ五輪聖火リレーで使われるトーチに採用された、というのをご存知でしたでしょうか?
SOTOの技術が、フランス大会のコンペを勝ち抜いた!
「平和」と「友愛」を表現する聖火、オリンピックの象徴といえる存在ですよね。そんな聖火を運ぶトーチですが、じつは複数のパートから作られているのをご存知でしょうか。
「デザイン」「筐体」「燃焼機構」といった具合に分かれており、各パートごとに、複数社によるコンペがおこなわれました。
風が吹こうが雨が降ろうが、絶対に絶やしてはいけない聖火リレー。東京オリンピックの際は、社員100人弱の中小企業である新富士バーナーが参加する共同体がコンペを勝ち抜き採用されました。
そんな新富士バーナーの「燃焼機構」と「ボンベ」がこの度、なんとフランス大会でも採用されたというのです。国の威信をかけて開催するオリンピックで、他国企業の技術が採用されるというのはまさに快挙。
一体どのような「燃焼機構」なのか、本社工場を突撃取材し、開発担当の一人である山本洋平さん(写真右)にお話を聞いてきました。
少々マニアックな話になりますが、ぜひ最後までご覧ください!
フランス大会のトーチがコチラ!
画像出典:パリ2024オリンピック
というわけで早速ですが、こちらが今回のパリ五輪の聖火リレートーチ。
「平等」「水」「平和」の3つがテーマに掲げられ、トーチ下部の波のような造形はパリを流れるセーヌ川の水面を表現しているそう。
また、これまでは上に向かって広がっている形状のものが多かったようですが、今回は上下対称の形状で上部がすぼまっているのが特徴です。
この形状にかなり頭を悩ませた、と話すのは山本さん。一体どのような課題があったのでしょうか。
今回のトーチで苦労した点は?
山本洋平さん
まず前提として、炎が燃えるにはガスと酸素が必要なのですが、今回は上部がすぼんでいる形状だったので、空気を取り入れにくいという課題がありました。
また、聖火リレーでは赤い炎を出す必要があるのですが、試作段階では青色の炎が出てしまいました。その調整に思った以上に時間がかかりましたね
旗(フラッグ)がたなびくような炎を
山本洋平さん
東京大会では桜の花を模したトーチから炎が出てくるというコンセプトだったのに対し、パリ大会のデザイナーさんからの要望は、ランナーが走った際に炎が旗(フラッグ)のようにたなびくように、というものでした。
しかも、ランナーが止まっているときは炎を上向きに、走り出すと横向きの炎になるように、とのオーダーで、最初は開発部内で「どうしたらいいんだろう……」となってしまいましたね
山本洋平さん
デザイナーさんのこだわりはなかなかに強く、炎の色、長さ、幅にも細かい指示があって……。フランスと日本で時差があるなか、何度もオンラインMTGを重ねつつ、実際にフランスにも行き理想の炎に近づけていきました
山本洋平さん
また、東京大会のときは準備に3年という期間がありましたが、今回は準備期間が1年しかありませんでした。
この期間で2,000本という本数を量産できたのは、前回の経験があったからではないかと自負しています
決して「聖火」を絶やさないために
決して絶やしてはいけない聖火を守るために、トーチの燃焼機構にはSOTOがこれまでに作ってきたアウトドア製品の技術とノウハウが詰め込まれています。
なかでも中核を担うのが、「マイクロレギュレーター」と「触媒燃焼」の技術。なんと、時速60kmの突風にも、50mm/hの豪雨にも耐えるつくりなのだとか! 詳しく教えていただきました。
一定の火力を保つマイクロレギュレーター
山本洋平さん
聖火ランナーが走るさまざまな環境下で、炎の大きさ、勢いを一定に保つ、という必要がりました。そこで搭載したのが、SOTO製品にも多く搭載しているマイクロレギュレーターです
山本洋平さん
これがレギュレーターの断面です。簡単に説明すると、気温が高くても低くても、また燃焼時間にかかわらず、一定の炎を出すための機構です
山本洋平さん
アウトドア向けのストーブは火力調整ができますが、聖火リレートーチには火力調整バルブはありません。しかし、これがあるおかげで安定した炎を出すことができます。なので必須のパーツです
プラチナを使った触媒燃焼とは?
そしてもうひとつ、「触媒燃焼」という、アウトドア用ランタンで培ったノウハウも活かされています。
山本洋平さん
プラチナの触媒燃焼をきちんと説明するのは大変なのですが、分かりやすく言うと、バーベキューの炭が赤く燃えている状態に近いです。
熾火になった炭って、いくら強い風が吹いても消えないですよね。
雨や風によってプラチナが低温になっても、燃料と空気が供給される限り炎は消えないのです
山本洋平さん
万が一、上部から出ている赤い炎が消えてしまっても、このプラチナの触媒燃焼は200度以下にならなければまず消えることがないんです。なので、炎を絶やさずに保つことができる。
触媒燃焼とレギュレーターというのは、SOTOが持つノウハウの核心の部分ともいえます。なのでこのトーチは、SOTOの技術の“全部のせ”的な作品といえますね
聖火がフランスを駆け抜ける!
2024年7月26日に開幕するパリ2024オリンピック。聖火リレーはすでにはじまっており、これから開会式に向け、聖火がフランス全土を巡ることになります。
日本のアウトドアシーンを支えてきたSOTOの技術が、平和の象徴としてフランスをリレーで繋ぐ。その雄々しい姿をぜひチェックしてみてください!
SOTOの公式ホームページはこちら