日本のゴルフ業界を牽引するキャロウェイゴルフ。昨今ではジャック・ウルフスキンブランドも展開し、アウトドアフィールドを舞台としたアクティビティに広く携わっています。そんなキャロウェイゴルフが、鳥取県智頭町で森の整備活動に取り組んでいるということをご存知の方は、そう多くはないのではないでしょうか?
宿場町であった智頭宿で有名な鳥取県智頭町。キャロウェイゴルフはここで「キャロウェイの森」を育む活動をしています。自治体の全面協力のもと、針葉樹を皆伐した土地に広葉樹を植林するという活動を行っているのです。このことに関して、プロジェクトの責任者であるキャロウェイゴルフの喜田さんは「日本の国土の70%が森であり、そのうちの40%がスギ・ヒノキの人工林。つまり国土の28%がスギ・ヒノキ人工林であり、その一部が戦後の国をあげた森林政策で作られた森です。これは自然環境的にみるととても“不自然”なことだと思いませんか?」と問題提起をします。そして、キャロウェイゴルフとして見出した一つの答えが広葉樹植林であり、ひいてはそれがキャロウェイゴルフの目指す“ALL FOR GREEN”に繋がるとも教えてくれました。
キャロウェイゴルフは、坂本龍一氏が創立した一般社団法人more trees(モアトゥリーズ)とパートナーシップを結び、「キャロウェイの森」プロジェクトを推進しています。いま現在、人工林の皆伐跡地に広葉樹を植える必要性について、モアトゥリーズの宮﨑さんが語ってくれました。
スギ・ヒノキ人工林における生物多様性の低下
スギ・ヒノキ人工林は大きな問題を潜在的に内包し、条件が揃うことでその問題が顕現化されています。そのひとつが生物多様性の低下。人工林は本来、適度な間伐などの管理作業を必要とします。しかし、十分な管理が行き届かなくなると、林床に光が届かない森になり、他の植物が育ちにくくなります。植物の種類が少ないと、それだけその森に暮らすことのできる動物も減り、結果として生物多様性が低下するといった指摘が。
宮﨑「建築物の材質として使われるスギやヒノキは、戦後の復興の中、拡大造林政策のもと大量に植林されました。生育が早く材質として加工しやすいのが、これらの針葉樹が選ばれた理由でした。その結果、人工林の環境は日本全国似たものとなり、多様性が失われた部分もあると考えています。だからといって森林政策は失敗だったのかというと、そうとも言えません。現に針葉樹人工林でも豊かな環境を維持している森林はあります。結局は最適解が見つからない状況と言えるかもしれません」
スギ・ヒノキ人工林が自然災害を引き起こす?
雨の多い日本において毎年どこかで必ず起こる災害が、土砂崩れ。針葉樹林はこの要因のひとつになっているともいわれています。
宮﨑「災害の原因とは言いませんが、災害に弱い面はあると思います。例えば、多くの広葉樹の根は地面を抱えるように地中深くに入り込んでいきますが、針葉樹の根は地表の浅いところで横へ広がります。様々な種類の樹木が生育している森と比べると、スギ・ヒノキ林の方が台風による倒木や表土浸食のリスクが高いといえます。そもそも適した環境ではないのにスギやヒノキが植えられてしまっている森があるのも現状です」
スギ・ヒノキ人工林によるその他の問題点
生物多様性の低下や自然災害の可能性以外にも、針葉樹人工林が原因となり得るリスクや事象はまだあると宮﨑さんは言います。
宮﨑「どんぐりなどの木の実を実らす広葉樹が減ったことで、獣が人里に侵入することによる獣害は大きな問題のひとつです。またいまや国民病と言われる花粉症もご存知の通り、スギ花粉がもっともポピュラーですよね。これは現代のアスファルトの埃や排気ガス、ハウスダストなどさまざまな物質が関与し合って起こるとも言われているので、現代病の側面もありますが。あと個人的に大きな問題だと思うのが、単一種へ依存する事によるリスクです。林業では、一度植えた樹木が収穫できるようになるまで数十年単位の時間が必要です。数年後にどんな樹種がトレンドとなっているか予想するのも難しいのに、単一の樹種に全てを賭けるのは非常にハイリスクではないでしょうか?それならば、いくつもの樹種を組み合わせた多様性のある森づくりの方がリスクヘッジにもなるのではないか? と考えています」
ここで再び話は、智頭町のキャロウェイの森に戻ります。この森にはひとつ大きな特徴があると、キャロウェイゴルフでキャロウェイの森プロジェクトリーダーを務める喜田さんは言います。それが川に近いこと。同じく、宮﨑さんも、これだけ川に近い環境で植林活動を行うことは豊かな自然環境の形成に非常に重要と太鼓判を押します。
「海は山の恋人、川は仲人」
“豊かな山は豊かな海に直結する”。その考えのもとキャロウェイの森プロジェクトは実行されています。
喜田「針葉樹を皆伐し広葉樹を育て、多様性のある森づくりをすることで、土が豊かになります。肥沃な土壌は鉄を川にもたらし、それらが有機酸と結びつきながら海に運ばれることで海も豊かになる。つまり豊かな海を作るには山を肥えさせなければならないのです。その流れに照らし合わせると智頭町に用意していただいたこのキャロウェイの森の場所は一丁目一番地であり、感謝とともに智頭町の想いや期待が伺えて身の締まる思いです」と喜田さんは言います。
智頭町の取り組みとキャロウェイの森への繋がり
智頭町では森林の空間利用の一つとして、「森林セラピー」を実施しています。これはNPO法人森林セラピーソサエティが主催するものであり、全国の山や森、実に60箇所ほどで行われています。智頭町の森林セラピーは15年の歴史があり、全国の中でも最古参のひとつということです。森への誘致を目指す、智頭町。その姿勢はキャロウェイゴルフが目指す“ALL FOR GREEN”の考え方に通じるものがあると喜田さんは考えています。
みんなに関わってもらう “ALL FOR GREEN”
最後に、キャロウェイゴルフがキャロウェイの森を通して目指す“ALL FOR GREEN”という考え方について、喜田さんの展望を伺いました。
喜田「“ALL FOR GREEN”は簡単に言えば、キャロウェイゴルフに関わるあらゆる人たちみんなと一緒に森(環境)を守っていきたい。そのような考え方です。そのためにも、森に入ることで森に親しみを感じ、そして“守る”“育てる”という想いが生まれることを期待しています。具体的には植林からスタートさせ、そこから産官学の連携プロジェクトへの発展を考えています。まずは次世代を担う学生を呼び込み植林を体験してもらうことで、またその次の世代に自分たちが感じたことを繋いでいってもらいたいですね。もちろん、将来的には学生だけでなく企業の方々の関心も巻き込みながら、関わったすべての人とともに森を育てていく。それがぼくらの目指す“ALL FOR GREEN”という指針です」
喜田 慎さん
株式会社キャロウェイゴルフ
キャロウェイ・サステナビリティ・コミッティ プロジェクトリーダー
「キャロウェイの森」を含む、キャロウェイゴルフ株式会社が展開するサステナビリティ活動「ALL FOR GREEN」の牽引役として、ビジネスを通じて環境課題の解決に貢献するプロジェクトの企画・運営を手掛けている。また、同社が抱えるドイツのアウトドアブランド「ジャック・ウルフスキン」のマーケティングマネージャーとして、ブランドコミュニケーション活動や、イベント企画にも取り組んでいる。