福岡県糸島市にて2022年にオープンした「Itoshima SDGs Village 地球MIRAI」は、眼下に青い海が広がる開放的でプライベート感のあるグランピング施設です。ラグジュアリーな雰囲気のドームテントに宿泊して自然を楽しめば、ポジティブな方向で環境や地域社会を考えるきっかけが生まれる? そんな噂を聞きつけて、編集部は現地に向かいました。
白い砂の海岸と透き通った青い海、豊かな緑の山々に囲まれた糸島市は、福岡県西部に位置する風光明媚な田舎町です。九州随一の大都市である福岡市からのアクセスもよく、暖かい時期はレジャーで、寒い時期も名物の牡蠣を目当てに多くの観光客が訪れます。
そんな糸島市の海岸沿いに2022年3月にオープンした「Itoshima SDGs Village 地球MIRAI」は、絶景のオーシャンビューが魅力のグランピングリゾート施設。プライベート感ある4棟のドームテントは全室オーシャンビューで、手ぶらで地元食材のBBQを味わうこともできます。この施設を立ち上げたのは「株式会社トキメクデザイン」の井上知子さん。都会的な生活から一変、2018年に糸島に移り住んだ移住者の一人です。
そして移住した際、0歳の子どもを育てながらするなら自営業が良いと思って、まずは一棟貸しの民泊事業を始めたんです。さらに糸島の良さを知れば知るほど、ゲストの方に自然を満喫してほしいと思い始めました。
ここ糸島に移住するまでは東京と神奈川の都心部で暮らしていたという井上さん。夫の転勤を機に糸島に移住し、子育てしながら働くのであれば自営業がいいのではと考え、ゲストハウスを始めたのが糸島の自然を満喫して欲しいと考えるようになったきっかけでした。
そして今ある地球MIRAI SDGs Villageがある土地を見つけた頃、個人でビーチクリーンに参加していたこともあり、SDGsに興味を持つように。そして、まわりの方々の協力もあり、グランピング×SDGsという異色の観光施設が誕生したのです。
5ヵ年計画の第一弾としてグランピング施設をオープン!
- SDGsとグランピングって一見すると相反するような感じもするのですが、どうしてこの事業を始めたのですか?
- SDGsな取り組みってクオリティを下げることにはならなくって、むしろ上げられると思っていて。環境問題もSDGsも、押し付けがましくするのでなく、楽しんで、知ってもらうというきっかけづくりができればと考えています。
- ドーム型のテントはそれぞれ違う雰囲気で楽しそうですし、目の前に広がるエメラルドブルーの海は圧巻ですね!
- 流木で作ったアートなインテリアや、廃材を使った床材、壁材なども使いながら個性溢れる空間を作りました。また、それぞれにプライベート感のあるダイニングも用意しているので、ご家族やお友達でゆったりと過ごしていただけます。
各テントへと続くアプローチも、話を聞くと実は、既存の素材を有効活用したもの。床のタイルは業者さんが物件を建てる際に予備で発注したものの余りやサンプル品を用いてモザイク風に張ったものなんだとか。そしてウッドデッキの縁には子どもたちがワークショップで絵付けした不揃いのタイルが並びます。また、山側の壁面に目を向けると、裏の竹林から伐採した竹で作った竹垣がありました。
地産地消、フードロス軽減を叶える魅惑のBBQメニュー
身を置くだけで幸せな気分に包まれるような地球MIRAIの施設ですが、その魅力は料理にもあります。地域にもゲストにも喜んでもらえるようにと考案された地産地消のBBQコースは、糸島野菜や地元の精肉店から仕入れた贅沢なお肉、糸島産のお米が使われています。好みに合わせて4種類のプランから選択でき、なかには糸島で捕獲された猪や鹿肉を食べられるジビエコースも。
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大型のガスグリルがそれぞれのダイニングスペースにあるんですね!
これならスペアリブも美味しく焼けそうですし、盛り上がりそう。 - グランピングなのでこちらが食材を用意してテーブルまでお持ちするのですが、やはりお肉を豪快に焼くのはBBQのハイライト。ゲストのみなさんが簡単に使えて、かつ楽しめるようにしたいと思ったんです。
- BBQのメニューにも地産地消、地域創生を掲げているそうですが、おすすめのコースはありますか?
- 美味しいお肉をリーズナブルな価格で召し上がれる「地球MIRAI BBQコース」というのがあります。これは、味はA級品なのに形や厚みなどが不揃いなだけで規格外になってしまうお肉をメインにすることで、フードロス問題をお得に解消できるというWin-Winなプランなんです。
有田焼のお皿で食事を提供。窯元との接点を作る
- 伝統工芸の支援という意味合いも込めて、食事を提供する際に使っていただく食器は地元の窯元さんで作られたものにしています。コロナ禍で骨董市が開けずダブついたB級品の在庫を、まとめて購入させていただいたんです。
- 使い捨てのプラスチックや紙の皿では環境に良くない。ここでいいお皿に出会えたら、帰りにお土産として買って帰りたくなるでしょうし、素敵な試みですね。
- 単純に素敵な有田焼の器を使って食事を楽しんで欲しいし、海の目の前なのでゴミは極力出ないようにしたいし、一石二鳥の仕組みになっています。
多様性のある働き方で地域とつながる
休日の楽しい時間を過ごすグランピングのなかで、さりげなくSDGsへの興味を喚起させる「Itoshima SDGs Village 地球MIRAI」。井上さんは惚れ込んだ糸島の地の魅力を知ってもらおうと事業を拡大していますが、目に見えやすい環境問題だけでなくSDGsの17項目にもある“人の生活”にフォーカスしたいくつかの項目、例えば、経済、平等な社会の実現を目指した事業運営も心がけているといいます。
- 地球MIRAIの施工に関わった方々や、現在働いている方々も地域の方々とのことですが、やはり働き方にも心がけていることはあるのでしょうか?
- 私は自分がというよりも、地域の方々と共にVillageを作っていきたいという想いが強く、地域密着、ダイバーシティ雇用の考えを大切にしています。建築、土木、水道、電気工事は70歳以上の地元のベテランの方たちにお願いしているのですが、さまざまなアイデアを出してくれるので助かっています。
- 70歳以上!? 地元のコミュニティーセンターみたいにほのぼのとした交流が生まれそうですね。
- 運営スタッフは子育てのためフルタイム働けない主婦の方も積極的に採用していて、少しでも皆さんの役に立てればと思っています。
子どもたちが遊べる、SDGs教育の場を作りたい
グランピング施設の収益をもとに、数年以内に山の斜面に子どもたちの遊び場を作る計画をしているというSDGs Village。現在も不定期でアウトドアヨガのレッスンをおこなうなど、宿泊者以外の方も対象のイベントを開催していますが、今後はその活動も活発にしていくそうです。自然豊かな立地を活かし、子どもたちが自然の大切さを実感する「ネイチャースクール」や、SUP、カヤック、森で体を動かして健康になる「アウトドアフィットネスクラブ」など、やりたいことは山積みなんだとか。
白砂のビーチが美しく、夏には多くの海水浴客で賑わう糸島。地域の誇りである海を守り、受け継いでいこうと、同施設の皆さんは時間を見つけて隣の砂浜でゴミ拾いもよく行っているそうです。
- 糸島の人ってSDGsとか関係なくゴミ拾いをやったり、誰に言われるでもなく道端の草を刈ったり、地域活動をしている方が多いんです。誰かがやってくれるのを期待するのではなく、自主的に行うというのは素晴らしいですよね。
- Itoshima SDGs Village 地球MIRAIではこの方々の補助として団体向けに散乱ごみの指定袋も配布しているんですね。糸島への地域愛を感じます。
環境問題や社会問題に取り組むとなるとどうしても身構えてしまい、息苦しくなってしまうというのが正直なところですが、この場所を訪れて自然に触れ、楽しんでいれば、何かしらに気がつき、考え、みんなが少しづつ行動に移せれる気がします。糸島SDGsVillagはオープンから一年を迎え、地球MIRAIには2500人以上のゲストが宿泊。休暇を過ごす海辺のリゾートで撒かれているSDGsの種は、日本全国どこかで芽吹いていることでしょう。
井上 知子さん
株式会社トキメクデザイン代表
結婚・出産を機に10年間の会社員生活に終止符を打ち、2018年に横浜から福岡へ移住。糸島での民泊運営を経て、SDGs推進を目標に掲げる社会貢献型企業「株式会社トキメクデザイン」を設立。銀行からの融資や会社員生活時代に貯めた貯金を投入し、糸島SDGs Village 地球MIRAIを22年3月にオープン。23年には姉妹施設としてアロマをテーマにしたプライベートグランピング施設も開業予定。