このマシンが海ゴミ問題を解決します! #LIFE もう一度キレイな海が見たい海ゴミ問題を解決する熊本発の取り組み
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日々上流から流れる川に乗って、ゴミは河口から海へと運ばれていきます。街で出たゴミが流れ出て、終着点である海で海洋浮遊ゴミとして皺寄せがくる……そんな状況を打開しようと立ち上がった熊本の環境系ベンチャー企業「SUSTAINABLE JAPAN(サスティナブル ジャパン)」の東濵孝明さんのもとを訪れ、同社の活動を見てきました。

CONTENTS1 持続可能な海洋ゴミの収集方法を追い求めて

目に見えない小さなゴミが、大きなダメージに

プラスチック製品の大量生産がおこなわれるようになってから一世紀が経ち、海には自然分解されない海洋ゴミが大量に漂うようになりました。浜辺に目を向けると大小さまざまなゴミが流れ着いているものだけを見ても、汚染状況は相当なものでしょう。2050年には海洋プラゴミの量は海に住む魚の量を超えるともいわれており、世界中で取り組まなければならない切迫した問題となっています。

海に漂うプラゴミを効率的に回収したい

環境系ベンチャー企業「サスティナブル ジャパン」を起業した東濵孝明さんは、海洋ゴミが漂う海の現状に心を痛め、環境保全に心血を注いでいる人物。「自然に流れ出るゴミを回収して美しい海を取り戻したい」という思いを自動ゴミ回収機に込めて、その認知拡大と製品開発に取り組んでいます。

「僕自身は熊本県で生まれ育ち、海は子どもの頃から身近な存在としてありました。10年ほど東京で働いて結婚を機に帰郷したのですが、慣れ親しんだ海に行ったらゴミが浮遊していて、僕の記憶とは違う姿となっていてショックを受けたんです。それから自主的にビーチクリーンをするようになりました。しかし、いくらやっても無くならないゴミに絶望感を覚えることもあって、どうにか効率良くゴミを回収できないかと考えたんです」

起業のきっかけとなった
海洋ゴミ回収機「シービン」

港や湖などに設置しておくだけで海面に漂うゴミを集めてくれるシービンは、オーストラリアで生まれ、現在全世界39の国と地域で利用されているという実績のある電動のゴミ回収装置。天候とゴミの量に応じて回収量は異なりますが、1日最大20kgの浮遊ゴミを回収し、マイクロプラスチックを年間1.4トン回収できる性能を持っているそう。

「僕たちが寝ている間もゴミを集めてくれるので、人間は設置したあと集まったゴミを捨てるだけ。僕自身この機械を使ってみて感動したので多くの方に使っていただきたいと思い、月単位のリースを事業として始めました」

CONTENTS2 サスティナブル ジャパンが手がける“水を守る製品たち”

海で起こっているゴミ問題。その原因は街での生活でした

海の近くに暮らす人たちは日常的にゴミを目にして危機感を覚える機会が多いですが、内陸に住む人たちはどうでしょう? 「私はゴミを海に捨ててないし」と、門外漢になっていないでしょうか。でも実は海洋ゴミの8割は街から発生したものといわれていて、路上のゴミが川や水路に流出し、流れに乗って海へといたっているのです。

自社開発の用排水路用ゴミ回収機「シースリバー」

海でのゴミ収集をおこなう過程で、海だけではなくその一歩手前である川にも目を向けたサスティナブルジャパンでは、2023年に自社開発の用排水路用ゴミ回収機「SEETHLIVER(シースリバー)」を発売しました。

「シービンについてメディアで取り上げていただいたとき、県内の米農家さんから用水路にシービンを設置してほしいという依頼がありました。田んぼで使われる合成肥料のなかには、肥料をプラスチックで覆ったものがあり、その小さなプラスチックが川に流れ出てしまうので取り除きたいという要望でした。早速依頼者のもとへ向かって設置をしたのですが、用水路は水量が一定ではなく、水の中に潜る構造のシービンでは継続的にゴミを回収することが出来ませんでした。そこで、用水路で使うのに適したものの必要性を感じ、自社で用排水路向けの製品を開発することにしたんです」

こうして約2年半の開発期間を経てシースリバーは完成。現在特許出願中の同製品は、ボートのように水面に浮かべて使うゴミ回収機で、汲み上げポンプで水を吸い込み表層に浮いたゴミを回収してくれます。

ゴミをキャッチするネットの目は細かく、1mm片のゴミまで収集可能。取材したのは稲作の時期ではなかったため、嬉しいことに被覆肥料から出るプラスチック片はありませんでしたが、ネットに溜まったゴミをみると、人工芝の破片や正体不明のマイクロプラスチックがちらほらありました。

「一般発売に先立って、熊本県の農業団体の方々にシースリバーを導入していただきました。現状シースリバーは低価格とはいえませんが、実は農林水産省の農業補助金を使っていただければシースリバーもほとんどお金がかからず導入できるんです。こういった制度を利用して、全国のみなさんにも川からゴミを減らす活動に参加していただければと思っています」

業務用の排水洗浄剤「キープクリーンネクスト」

海から始まったサスティナブル ジャパンの活動は、さらに川上へ向かい、街の排水にも目を向けています。同市内にあるベンチャー企業「熊本ネクストソサエティ」が23年1月から販売している「キープクリーンネクスト」は、業務用の厨房に設置が義務化されているグリストラップ(油水分離阻集器)を洗浄するための洗剤。貝殻カルシウムが原料の製品で、除菌・消臭効果を発揮し、油や汚物を徐々に分解、きれいな水だけを排水溝に流すことができるといいます。サスティナブル ジャパンは同社と連携協定を結び、キープクリーンネクストの販売利益の一部をシースリバーの導入費用にあてるという環境循環型の取り組みを始めました。

導入している居酒屋「和ビストロ海真丸」のオーナー濱崎さんは、サスティナブル ジャパンの活動に共感してキープクリーンネクストを導入を決めた一人。「使い始めたばかりなのですが、消臭効果も感じますし、メンテナンスも楽になりました。そして何より天然原料の洗浄剤なので環境にも従業員にも優しいというのが嬉しいですね」
下水に流す前の段階で排水から油分を除去することで、より環境負荷が抑えられる。このように、事業者はもちろん街に暮らす一人ひとりの心がけが変われば、美しい海を未来に残すことができるのでしょう。

CONTENTS3 環境系ベンチャーが描く青写真

サスティナブル ジャパンとしての目標は、2028年までにシースリバー1000台を出荷すること。もしこの数が九州の各県で導入されれば、全域の河川の水質改善に影響も与えてくれるのではないかと東濵さんは期待を寄せています。

「私たちの製品は、環境に悪影響のあるものを自然から取り除くもので、直接金銭的な利益を生むものではありません。しかし確実に未来の子どもたちや自然にとっては大いに利益を生み出すと信じています」

INTERVIEWE PROFILE

東濵 孝明さん

株式会社SUSTAINABLE JAPAN 代表取締役社長

「未来の子どもたちのためにきれいな海を残したい」という思いから2019年に同社を起業。シービンやシースリバーを日本に普及させることで、海洋ごみ・マイクロプラスチック問題の解決に貢献している。