福島県浪江町で1976年からバッグ作りを生業とし、名だたるブランドのOEMなどを請け負う会社「キャニオンワークス」。その頭文字である“CW”に、福島(“F”ukushima)とファクトリー(“F”actory)の“F”を加えたブランド「CWF(シーダブリューエフ)」は、被災後の福島を“F”irstに考え、そしてモノづくりというステージからSDGsに取り組んでいました。
震災とブランド誕生。一見すると接点のない事柄のようですが、CWFの誕生に関して、震災という出来事がきっかけになっているといいます。その点についてキャニオンワークスの代表取締役社長である半谷正彦氏とCWFのクリエイティブディレクターであるアクタガワタカトシ氏に話を聞きました。
半谷「1976年に浪江町で創業したキャニオンワークスは、確かな技術力を背景に多くのファッションブランドやアウドドアブランド等のOEM製造を行い成長してきました。今現在はその事業を継続しながら、オリジナルブランドを4つ運営しています。そして、その中のひとつがアウトドアフィールドやホームユースに向けたギアとしてのバッグを提案するブランド『CWF(シーダブリューエフ)』です。
2011年の東日本大震災後、原発事故で浪江町にある私たちの工場は立ち入り禁止エリアとなりました。すぐに群馬の空き工場を見つけ移転し、スタッフも50人から20人くらいまで減ったこともあり、その埋め合わせをするためにも必死で働きました。その後、いわき市にあった工場を買い取り、スタッフの数も30人から震災前の規模の60人弱まで増やすことができ、そんな折にアクタガワさんがいらっしゃいました」
アクタガワ「経済産業省と東電による半官半民の復興支援プログラムのひとつで『ふくしまみらいチャレンジプロジェクト』というものがあり、そのプロジェクトから声がかかりコンサルタントとしてキャニオンワークスに派遣されたのが最初でした。2017年くらいですかね? そこから訪問を重ねてキャニオンワークスさんが何をしたいか少しずつヒアリングしたんです。するとオリジナルブランドをやりたいということだったので、そこから一気に話が進み2018年にCWFがスタートしました。何しろ設備が素晴らしく、それを生かす技術も高い。特に“厚物”を縫う技術に長けていて、自衛隊や消防など官給品を請け負うバックグラウンドまである。これを活かさない手はないなということで、強度が重要になるギアっぽいバッグというコンセプトが生まれたんです」
被災した人たちの雇用
震災で大きな転換期を迎えたキャニオンワークス。浪江町の工場が使えなくなり、それでもスタッフを養わなければいけないといういわば使命感にも似た思いから、必死に“雇用”を継続させたという。
半谷「被災者雇用という点を意識したかというと正直していません。というのは我々、経営陣を含めみんな被災者だからです。特に意識せずとも必然的に被災者雇用となり、それよりもいかに雇用を維持して、そして増やしていくか。必死に、がむしゃらに働きましたね。結果としてそれが復興に繋がると思っていました」
結果として、群馬工場への移転時に20名ほどに減った従業員が、いわき工場開設のタイミングで30名に増え、そしてその後も順調に雇用を伸ばし、いまや60名弱に。CWFなど震災後に誕生したブランドもあり、工場はフル稼働。
半谷「震災という特異な環境下で必死に雇用を繋ぎ止めてきたことによって、結果としてSDGs8項目の『働きがいも経済成長も』を実践してきたと考えています」
指針である“ロングライフタイム”に込めた思い
雇用を止めないという方針で、震災後の東日本の経済復興に貢献してきたキャニオンワークス。アクタガワさんが率いるCWFは新たに“ロングライフタイム”という計画を掲げ、さらに環境への取り組みを深めています。
アクタガワ「これはぼくの持論なんですが、本当のエコってひとつのものを長く使う。これに限ると思うんです。リサイクルするっていうのも大事ですが、廃棄物を回収して、それをマテリアルに戻して、また製品化する。この一連の流れには莫大なエネルギーやコストが掛かっています。原料リサイクルが環境に良いというのは、単なるイメージでしかないと思うんですよ。それに日本の市場ではまだまだ見た目の可愛さと、値段の安さが優遇されていて、結果として流行り廃りに左右されるモノに溢れています。それに抗いたいし、抗うのがぼくたち“日本製”を掲げるモノづくりの強みだと思っています。“一生モノ”という表現はありふれていますが、日本製でなおかつ国内で修理まで対応してくれるバッグメーカーって実はほとんどないんですよ。でもCWFはそれができます。ずっと使うということで生まれるスタイルや文化は、物質的にも精神的にもすごく美しく尊いと思うんです。CWFの製品はそもそも頑丈で壊れにくいので、今のところ目立った修理依頼はありませんが、いずれ我々が思わず感謝してしまうほどの、使い込まれた製品の修理依頼に出会える日が今から楽しみです」
SDGs目標の項目12 『つくる責任つかう責任』。CWFは“ロングライフタイム”という指針を打ち出すことで、これに向き合っています。
ロングライフタイムを掲げるCWFのクラフトマンシップ溢れる質実剛健なキャンプギアをアクタガワさんに紹介いただきます。
TENT HOUSE M
これは海難救助用の作業道具などにも使用されている、極めて丈夫なメッシュ生地を使用した、テント等の幕体類を保管するためのバッグです。大きめの設計となっており、幕本体に負荷をかけず、しかもメッシュ素材なので通気性が保たれ加水分解やカビの発生などを抑制する効果もあります。また開口部が大きく、大型幕でも出し入れも楽々。ポールと幕を別々に収納したり、ドア部分のポケットにペグやガイラインなどを収納できたりと、使い勝手は非常によくテント名を記すためのタグがワンポイントになっています。最初にLサイズが発売されたのですが、小さめのサイズも欲しいという声にこたえてMサイズが最近ラインナップに加わりました。
KERMIT BACKPACK KIT
キャンプチェアの最高峰であるカーミットチェアをバックパックスタイルにコンバートするためのキットも、CWFらしさを感じてもらえるアイテムだと思います。ソースとしてはアメリカのビーチチェアでこういう背負えるイスがあるんですよ。そこからイメージを膨らませました。約10L程度の容量ですが、このバックパックに道具をまとめてキャンプを完結できたら非常にクールだなと思って。コンパートメントの下にモールシステムがあり、ポーチを付けたり、背負子のようにフレームを活かしてアイテムを括りつけたりするなど拡張性もあるので是非、挑戦してもらえたらなと思います。もちろん座り心地も保証しますよ!
ALL WEATHER CONTAINER M
これはCWFというブランドに欠かせないアイテムです。とにかく使い勝手が良く、汎用性も高いです。クッション材により中身が守られているのはもちろん、デタッチャブル式の間仕切りを使うことで、アイテムに合わせた収納ができます。またメッシュ素材を使ったドライハウスという食器などの収納に便利な製品がすっぽりと収まる作りになっていて、組み合わせて使うことでアイテムの整理も楽チンです。なによりもこれだけ厚みのある丈夫な生地を多面的に使いながら、このクオリティに仕上げるキャニオンワークスは改めてすごいなって感じさせられますね。
ここまで、ブランドの指針やアイテムについて聞いてきたところで気になったのが、今後CWFが目指す目標について。最後に、アクタガワさんに聞いてみました。
今回新たに、修理に対応することをわかりやすく表現するために“ロングライフタイム”というキーワードをブランドのスローガンとして掲げることにしました。この言葉の本質には“日本製の矜持”があります。つまり実際にそれをやっているところはほぼないのですが、日本製だからこそできることであり、ある意味、新しい価値観を生み出す考え方だと思っています。理想を言うならば、目標は『リーバイス』です。古着として何人もの人の手に渡り、その過程で直されツギハギだらけになってもなお愛されている。そういう価値を生み出せる存在になっていきたいと考えています。
アクタガワタカトシさん
CWFクリエイティブディレクター
10年以上にわたりアウトドアファッション誌の制作スタッフとして携わる一方、様々なアウトドアブランドにおいて企画デザインを担当。2018年よりスタートのCWFではプロダクトデザインのみならずマーケティング全般も担う。