朝起きたら、そこは田んぼだった……
出典:X by@camptakeshi
「設営前にそこが雨で水たまる場所かどうか判別する方法ありますか? 田んぼの中に張ってしまいました」
以前、梅雨真っ只中だった6月に、X(旧Twitter)でこんな投稿が話題を集めたことがありました。
多くのアドバイスが!
出典:Toggetter
こちらのポスト(旧ツイート)、季節的にもタイムリーで大きな反響が。多くの回避策アドバイスも集まりました。
集まったアドバイスはいずれも、各自のリアルなキャンプ経験に基づく貴重なナレッジばかり。
キャンプたけしさんと共に、専門家に聞いてきた!
キャンプたけしさん
2018年のキャンプデビュー以来、キャンプと焚き火の虜に。キャンプの記録管理「キャンログ」や、5,000人参加の日本最大キャンプオープンチャットを運営。日本キャンプ協会/オートキャンプ協会公認インストラクター、焚き火協会認定焚き火スト。
それほどキャンパーの関心が高いトピックということで、CAMP HACK編集部ではさらにこの件を深掘り。
投稿者であるキャンプたけしさんと共に、サイトの水没を回避する対策について専門家のアドバイスの下で検証することにしましたよ。
アドバイザーはこの方!
渡辺 亮(わたなべ りょう)さん
株式会社ライジング・フィールド 法人営業本部 本部長。同社が掲げる「子どもたちの生きる力を高める」「家族の絆を深める」「人・組織の可能性を切り拓く」の3つのミッションの下、「ライジングフィールド軽井沢」を拠点に、全国様々な場所で、自然体験活動・アドベンチャーラーニングを中核とした教育事業などに携わる。JBS認定ブッシュクラフトインストラクター※JBS(Japan Bushcraft School)。日本焚き火協会認定焚き火スト。
出典:Instagram by@rfk_official_
今回、キャンプたけしさんと編集部は、長野県の人気キャンプ場「ライジング・フィールド軽井沢」さんへお邪魔してきました。
同キャンプ場の運営や全国各地でさまざまな教育機関・企業の研修にまで携わる渡辺 亮(わたなべ りょう)さんに、アドバイスしていただきましたよ。
水没を避けるために、キャンプ場選びでできることは?
事前の情報収集が重要
渡辺さん:キャンプでは、自分でその快適性を担保したり安全性を作り出すために、情報収集が重要です。今はSNS時代なので、まずは口コミのチェックが大切ですね。
直接キャンプ場に「雨降ったときってどうですか」とか、土なのか砂利なのかなど、サイトがどんな土壌なのかを聞くのもポイントですね。
キーワードは「勾配」と「水路」
渡辺さん:あと、これは実際行かないと確認できないのですが、実は「勾配(こうばい)」が最も肝となるポイント。
サイトに水が溜まらないように、ライジング・フィールドでは全てのサイトに少しずつ勾配をつけて造成しています。
キャンプたけしさん:人が過ごしたり寝たりするのには平坦な方が快適だけど、やっぱりあえて、ちょっと勾配をつけるのが、キャンプ場の建築土木のノウハウとしては大事なんですね。
渡辺さん:そしてもう1つ肝になるのが、勾配に加えてしっかりと水が流れる「水路」をつくることです。
ライジングフィールドでは「水路」の他に、排水を促進させるために土の中をえぐって配管を設置する「暗渠排水(あんきょはいすい)」を一部施工しています。
単に「水路」を作るだけでなく、細かい石を入れて中にメッシュパイプを通すことで、水を浸透させつつ流れていく仕組みになっているんです。
暗渠排水とは?
水田を乾田化する方法の一つ。 透水性のある管を地下に埋設し、地上や土中の水を集水しながら排水路へ導通させる設備のこと。
渡辺さん:つまり、キャンプ場作りって街作りと一緒なんです。ちゃんと排水を考えて水路を作り、しっかり水が流れる場所や流れ込む場所があり、さらにその水を処理したり浸透させる「浸透桝(しんとうます)」というのもあるんです。
水が流れ込んでいって最終的に貯まる桝のことで、穴を掘ってそういう場所をちゃんと作っているかどうかが重要です。
キャンプたけしさん:なるほど! 逃げ先を作っておくっていう……。東京の目黒川とか、昔はめちゃめちゃ氾濫したって聞きますけど、今はちゃんと貯水池が整備されてますよね。
キャンプ場に行った際には、「このキャンプ場は、そういう街作りの要素を取り入れてるか」的なチェックをするのもポイントなんですね!
ズバリ、どんなサイトを選ぶべきなのか?
キャンプたけしさん:土、砂利、芝生、林間、ウッドチップ、ウッドデッキ、河川敷とか含めると6つぐらいのサイトの種類があると思うんですけど……。
ズバリ、どのサイトを選べば水没を回避できるんでしょうか?
渡辺さん:そうですね。それについては、実際にそれぞれの種類のサイトを周りながら、詳しくご説明していきます。
安心度が高いのはウッドデッキ・芝生
渡辺さん:言うまでもなく、やはりウッドデッキが一番安全ですね。高床になっているので。
渡辺さん:次に安全なのは、ちゃんと手入れのされている芝生サイト。芝生が生え放題で放置されているところは怪しいです。
砂利・土サイトはどうか?
渡辺さん:次が「砂利」サイトですね。これは要するに粒子の問題なんですよ。砂利からさらに粒子が細かくなると「土」ですよね。なので、粒子が細かく粘土質の「土」サイトは最も水はけが悪いです。
渡辺さん:ただ、粘土質の場所って、しっとりしてる時は表面が「テカテカ」して見分けやすいんですが、乾くとひび割れていたりして分かりにくいんです。
だから粘土質かどうかというのは、その近辺の水みちなど、ちょっと窪んだところを探せば、なんとなくその指標が見えてきます。水の流れの跡や水溜りなどを見つけると、多分そこに答えがあると思いますよ。
キャンプたけしさん:観察力というか、洞察力がすごい……。土だけ見ても分からない時は、全体像から見極める必要があるんですね。
ウッドチップサイトは……?
渡辺さん:ウッドチップそのものは水はけがよく浸透しますが、問題はその下の土壌。砂利なんかだといいんですが。
下の土壌の水はけが悪いと水が溜まる可能性があります。ただ、水が溜まるとウッドチップがサイトから流れ出てしまうので、それを防ぐためにも、勾配や水みちに配慮しているキャンプ場が多いかと思います。
草地は「指標植物」で判断すべし!
渡辺さん:「草地」の場合も一概には言えないんですが、「指標植物」というのがあるので、それに応じて判断するといいですね。
たとえばイネ科の雑草が生えていたら、そこは湿地帯や水田のように、水が溜まっていた場所だという指標になるんです。
指標植物とは?
特定の環境条件で生育することから、その立地の環境条件が分かる=環境の指標となる植物のこと。
林間サイトはケースバイケース
渡辺さん:「林間」もいろんなシチュエーションがあるので、ケースバイケースですね。
ただ、アマゾンの熱帯雨林などと違って、日本の林間で水が溜まっている状態ってイメージしづらいですよね。傾斜がある場合が多いので、ちゃんと雨が流れる水路があれば水没の可能性は低いと思います。
河川敷の石ゴロゴロサイトは?
出典:PIXTA
渡辺さん:河川敷で石がゴロゴロあるサイトは、水はけ自体はいいです。
ただ、増水した時の危険性をはらんでいます。中洲に取り残されてしまう事故も発生しており、注意が必要です。
キャンプたけしさん:確かに……! そもそもサイトが水没するくらい雨が降る時には、河川敷でキャンプすべきではないってことですね。
もっと知りたい!水没を避けるためのQ&A
ここからはいよいよ、Xのポストに寄せられたアドバイスを渡辺さんに検証してもらいます!
【Q1.】 草が生い茂っていれば安心?
【A.】 NO!指標植物を確認すべし
渡辺さん:これはさっきの指標植物の話で、いくら草が生い茂っていても、その草が水没する場所を好む種類の植物だとNGですね。
まさにキャンプたけしさんの投稿画像でも、イネ科の雑草が生えていました。なので必然的に水が溜まる訳です。
キャンプたけしさん:僕のあのサイトは本当に田んぼだった。もう、イネ科だもん。笑。 草というだけで一概には言えないってことなんですね。
渡辺さん:基本、田んぼの中に生えてる植物ですからね。水に強いからこそ。
そういう指標植物を自分で調べてみるのが大切だし、ファミリーキャンプなら、子どもと一緒に「Googleレンズ」とかを使って、楽しみながら探すのもおすすめですよ。
【Q2.】草の根本の“泥”で判断できる?
【A.】YES!サイト全体を見渡すべし
渡辺さん:これはその通りだと思います。白っぽくなってるところですかね。
ただ、単に泥が飛んで付着しただけなのかなど、全体的に見渡して、ある程度同じ高さのところに泥がば〜っと付いてるのかというのも1つポイントだと思います。
出典:PIXTA
【Q3.】「石クラゲ」の近辺は危ない?
【A.】YES!苔もチェックすべし
渡辺さん:これも○です。「石クラゲ」は指標植物の1つなので。
出典:PIXTA
渡辺さん:あと、草がまばらに生えて土が露出した場所で、苔が生えてるところも目印になります。うっすら緑がかってるところ。あれは水没しやすいエリアですね。
【Q4. 】「蛇イチゴ」のある場所は?
A. ケースバイケース!土壌の目安にすべし
渡辺さん:蛇イチゴは湿った場所を好むんですが、その場所=水没しやすいとは言い切れません。
水はけがあまりよくない場所とは言えるんですが、常に日陰なために、雨が降ったあとに乾かず湿っていたり、保水力の強い土壌だという指標にはなりますね。
出典:PIXTA
【Q5.】落ち葉溜まりは危険?
A. ケースバイケース!腐葉土なら注意すべし
渡辺さん:落ち葉溜まりにも種類があるんです。枯れ葉をどかして、その下がすぐ乾いた土の層なら、ただ風などで集まった可能性も。水の流れ道ではないと断定はできないんですが……。
渡辺さん:枯れ葉をどかしても、その下の枯れ葉が腐って腐葉土に近い状態のものが堆積しているとしたら、そこはアウト。水が溜まる場所ということです。
【Q6.】溝を掘るのは効果的?
A. YES!キャンプ場に確認すべし
渡辺さん:正解です。ぜひ掘って欲しい! 本来、掘るのは大前提で、できれば常に掘った方がいいくらい。
ただ、芝生サイトやウッドチップなど、キャンプ場側が丁寧に管理している場合もあるので、応相談するのがおすすめです。
ライジング・フィールドではスコップの貸し出しもしていますよ。
※溝を掘ることを禁止しているキャンプ場もあるので、事前に確認するようにしましょう。
テントの設営で意識すべきこと
ここまでの留意点以外に、さらにできる水没対策があるのかも聞いてみましたよ!
──他にもできることがある?
キャンプたけしさん:これまでに伺った点に留意しながらキャンプ場やサイトを選べたとして、その上でさらにできる対策ってあるんでしょうか?
渡辺さん:今度は、サイトの中での勾配のチェックですね。
自分で歩いて確かめれば、サイト内にもちょっと凹んだり、盛り上がったりと勾配があるのが分かります。
その勾配に合わせてテントなどのレイアウトを決めていきます。
渡辺さん:あとやはり、サイトの中にも水が流れたり溜まっていた跡があるので、それも確認を。水みちのチェックです。
ここなんかは砂利が溜まってて、水が流れた跡ですね。
キャンプたけしさん:なるほど〜! サイトを選んだ上で、さらにそのサイト内の勾配や水みちもチェックするべきなんですね。
やはり「勾配」と「水みち」がキーワードか!
渡辺さん:水みちや勾配がなければ、次のステップは自分で溝を掘ることですね。
──溝はどんな風に掘ればいい?
キャンプたけしさん:溝を掘るという話が何度か出ましたけど、実際、どんな風に掘ればいいんですか?
渡辺さん:掘り方は、テントの周りをぐるっと囲むような感じで掘ります。かつ、ちゃんと勾配に対して、水を流す道を作ってやるんです。
キャンプたけしさん:テントの周りに「お堀」を作るみたいなイメージで合ってます? 笑
渡辺さん:まさにそう。ただ「お堀」と違うのは、そこから水が流れ出ていくルートを作る点です。
勾配が低い方へ向けてルートを出さないと、本当に「お堀」で水が溜まってしまうので。
渡辺さん:そして、溝を掘ったなら、今度は帰る時に埋めるのも忘れないでほしいです。
やっぱり来た時よりも美しくというのが大前提。あくまでも、我々は自然の中でこの場所をお借りしてるという感覚の有無は、今後一層問われていくと思います。
キャンプたけしさん:人として、キャンパーとして、絶対に忘れてはいけないマナーですね!
モノは試しということで、渡辺さんのアドバイスを元に、キャンプたけしさんのサイトで実際にテントの周りに溝を掘ってもらいましたよ。
ちゃんと自前のショベルを持参していたたけしさん、流石です! テント周りの勾配を確認しつつ、まずはテントの周りを一周ぐるりと掘っていきます。
一周掘り終わったら、勾配が低い方へ向かって水が流れるルートを出していきます。これで完成!
もはや鉄壁の布陣が敷かれたような、絶大な安心感……。 ぜひ、皆さんもお試しあれ!
対策しても水没してしまったら…?
ここまでに教わった点に留意しつつ対策を講じ……、それでもサイトが水没してしまった時に、知っておくべきノウハウにも聞いてみました!
──撤収時のコツは?
キャンプたけしさん:サイトが水没してしまった場合、撤収時の注意点や、スムーズな撤収方法、おすすめのアイテムなどがあれば教えてください。
渡辺さん:ポリエチレン製の厚手のビニール袋で、テントなんかも入る特大サイズのものを常に携行しておくといいですね。
水没した時は何もかも、ポリ袋に素早く突っ込んでしまうのが一番。
ただ、普通のゴミ袋は薄くて破れやすいので、できるだけ厚手の丈夫なものを選ぶのがポイントです。
キャンプたけしさん:もう、そこでテントを畳むとかじゃなく。笑
渡辺さん:はい。もうとにかく突っ込んで入れるしかない。笑
──メンテナンスはどうしたらいい?
キャンプたけしさん:サイトが水没した際に、撤収したテントやペグなどの、その後のメンテナンスについて、注意すべき点を教えてください。
渡辺さん:やはり泥を落とすという意味で水洗いした方がいいですね。その場では難しいと思うので、ご自宅に帰られてから。ただ、マンションの方とか大変ですよね。
キャンプたけしさん:ウチ、まさにマンションなので結構ツライです。洗ったはいいけど、ベランダに干すか、お風呂で換気扇フルに回して干したり。でももっと大きいテントだと入らない。
出典:PIXTA
渡辺さん:そうなると、テントクリーニングがおすすめです。濡れたままだと加水分解が早まるので、そのまま現地から送っちゃうのもアリですね。
あと、泥には栄養素があるので、泥が付着した状態ではさらにカビが発生しやすくなる点も注意が必要です。
加水分解とは?
テント生地にコーティングされたPU(ポリウレタン)が、水分と反応して劣化する現象。ベタ付きや匂いが発生し、ポロポロ剥がれてしまう。
出典:ソトリスト
渡辺さん:また、ペグなど金属製のギアはちゃんと拭いて乾燥させる。ちゃんと錆止めスプレーすると尚いいですね。
今は安いキャンプギアが増えて、100均でも揃う時代。物を大切にする意識が希薄になっている気がします。
きちんとメンテナンスすることは、道具にしっかり愛着を持って大切に扱うことにもつながると思います。
キャンプたけしさん:100均のアイテムだとしても、大切に使い切ればいいんですよね。
自分も何回かテントクリーニングを利用したことがあるので、やはり、プロに任せるのは簡単だし安心ですね。
──キャンパーや読者へのメッセージがあればお願いします
渡辺さん:キャンプって、本来不便なもの・快適ではないものですよね。
その不便さを楽しんだり快適にするには、能動的な情報収集や、自ら考えて行動することが非常に重要だと思います。
また、サイトの水没などのハプニングが起きても、今の状況や事実情報を自分で分析・確認して、さらにどうなっていくのか想像することが大切です。
だから、キャンプを含む野外での体験活動は、レジャーではありながらも、全て学びの要素を内包しているんです。それは、キャンプの楽しみの1つでもあります。
キャンプを通して、本来の人間の生きる力というものを考え直す、そんないい機会にしていただけたらと思います。
創意工夫を楽しみながら、「田んぼキャンプ」を回避しよう!
キャンプとは本来不便なもの、快適ではないもの……。
レジャーでありつつも、安全・快適なキャンプのためには、知識や経験に基づく創意工夫が不可欠なことを、渡辺さんのアドバイスであらためて実感できましたね。
あなたもぜひこの記事を参考に、トライ&エラーを楽しみながら、「田んぼキャンプ」を回避してくださいね!