そのレジェンドギア、表彰していいですか?
日々進化を遂げるアウトドア業界。たくさんの新商品が生まれては、時代の流れとともに消えていきます。
そんななか、発売から数十年経っても姿を変えず、いまだに多くのキャンパーから絶大な支持を集める「レジェンドギア」が存在しています。
誰もが認める逸品の裏には、キャンパーを魅了する開発ストーリーが眠っているはず。
本企画はCAMP HACK編集部が、「レジェンドギア」の開発者にスポットライトを当て、日頃の感謝をこめて“勝手に”表彰する連載です。
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ヘリノックス「チェアワン」
今回のレジェンドギアはキャンプ界の革命児、ヘリノックス「チェアワン」。それまでの常識を覆す斬新なフレームワークを提唱した、アウトドアチェアの先駆者です。
抜群の知名度もさることながら、その完成度の高さから類似品が数多く発売されるなど、キャンプ業界に大きな影響を与えたギアともいえます。
まさにレジェンド。果たしてどんな開発秘話が眠っているのでしょうか……。
ヘリノックス チェアワン
サイズ | ⚫︎チェアサイズ/W52.5×D50×H65cm ⚫︎座面高さ/33.5cm ⚫︎ケースサイズ/W35.5×H10cm |
---|---|
重量 | ⚫︎使用時重量/890g ⚫︎収納時重量/960g |
耐荷量 | 145kg |
素材 | ⚫︎スキン・ケース素材/ポリエステル(100%リサイクル) ⚫︎フレーム素材/アルミニウム・プラスチック |
開発秘話を教えてくれたのは、この人
Lah,Jeh Kun(ラ・ジェゴン)さん
DAC会長。ヘリノックスを創設、「チェアワン」を開発した人
アウトドアチェアは重すぎる
──はじめに、ヘリノックスについて教えてください
ラ・ジェゴンさん:まず、ヘリノックスは「DAC」というポールメーカーのオリジナルブランドです。「DAC」の製品は、世界各国のアウトドアブランドのテントなどに採用されています
私がDACを創業したのは1988年。それまで寡占状態だったテントポール業界に一石を投じるべく、軽量ながらも柔軟性と強度をもつポールの開発を始めました
有名テントメーカーにポールを提供している「DAC」
ヘリノックスは、その延長線にあります。ブランドの立ち上げは2009年。一番最初の製品はトレッキングポールでした
テント以上に、トレッキングポールはそこに使われるポール素材に左右されるアイテムです。仮に「DAC」が各ブランドにポールを提供しても、使われている素材が一緒なら似たようなアイテムになってしまう。だったら、自分たちでブランドを立ち上げるべきではないのか、そう思ったのが始まりです
ブランド名の「ヘリノックス」の由来は、ギリシャ神話の太陽の神「Helios」と夜の神「Nox」。ロゴは、現社長である私の息子が、皆既月食をイメージしてデザインしました
──なぜ「チェアワン」を開発しようと思ったのですか?
ラ・ジェゴンさん:きっかけは、旧友であり、テントデザイナーでもあるマイクと米国ユタ州にあるモアブ砂漠に行った体験です
街からキャンプサイトに向かうまで、何時間もハイキングをする必要があったのですが、そのときに彼が折りたたみ式のチェアを担いでいたんです。今のように軽いものではなく、とても重いチェアです
当時のトレンドは軽量化。テントを含め、持ち物はなるべく少なく、軽量化するのが当たり前でした。
不思議に思った私は彼に「なぜわざわざチェアを持っていくのか。重いだけではないか」と尋ねました
彼は「今にわかるから」と一言。キャンプサイトにつくと、マイクはチェアを広げ、私たちはワインを開けました
深く腰掛けて、ゆったりともたれかかる。雄大な自然のなかで過ごすそのひとときが私にとっては衝撃的でした。地べたに座るのとはまるで違う。チェア一つあるだけで、ここまで快適なのかと
この体験をもっと多く人に味わってほしい。そのためには、バッグパックに収まり、かつ快適な座り心地のチェアを開発する必要がある。そう思ったのが「チェアワン」を作り始めた原体験です
重さ890gと1キロを切る軽量さは、当時革新的だった
チェア開発は未経験。だからこそ作れた
──「チェアワン」は従来のチェアとは一線画す構造です。アイディアはどこから?
ラ・ジェゴンさん:私自身、それまでチェアの開発経験がなかったんですよ。固定概念に縛られなかったといえばいいでしょうか
私にとって、「チェアワン」が初めてのチェア開発。まったく異なる発想で、開発を始めることができました
まるでテントフレームのような「チェアワン」の構造
最初に目をつけたのは、それまでたくさん作ってきたテントポールです。テントというのは、ポールを入れるだけでは強度を保てません。そこに、布と紐を組み合わせて、テンション(引っ張り固定すること)をかけることで、強風に耐えうる構造になる
チェアも同じだと思ったんです。「チェアワン」の構造を見ると、テントとよく似ていますよね。
ショックコードで繋がったポールを、座面の布で固定する。座面がピンッと張るからこそ、ポールの特性を高めることができます
「DAC」というポールメーカーで培った経験と、モアブ砂漠での体験が繋がって完成したのが「チェアワン」なんです
──開発時に一番苦労したことは?
ラ・ジェゴンさん:一番、苦労したのは強度と軽量性のバランスを保つことです。バックパックに収納するには、小さく、軽くなくてはいけない
まずは軽さを求めて開発しました。しかし、軽くしすぎるとポールが曲がってしまう
なので少しづつポールを太くしていきました。難しかったのは耐荷重(どれだけの重さに耐えられるか)を見極めなくてはいけなかった点です
単純にモノを置くだけのテーブルと違って、チェアには静的荷重と動的荷重があります。静的荷重というのは人が座ったときの重さ。つまりその人の体重です
一方で、動的荷重は椅子に座ったり、立ったりするときに生じる重さです。椅子に座るとき、ゆっくりと座る人もいれば、ドスンと座る人もいますよね。当然、そのときに加わる重さはその人の体重以上になります
私が目指したのは、70キロ〜80キロの人を、4本ある脚部フレームのうち1本で支えられる強度。
これを実現するために、数多くのテストをおこない、軽さとのバランスをとりました
結果として、これまで100万脚以上「チェアワン」を販売してきて、強度面で大きな欠陥は見つかっていません
フレームがショックコードで繋がっているのも、「チェアワン」の大きな特徴の一つ
最初の反響は「値段が高すぎる」
──発売時の反響は?
ラ・ジェゴンさん:「値段が高い」。それが「チェアワン」を発売して、一番最初に言われた言葉です。当時の「チェアワン」の値段は約100ドル。
一方、アウトドアチェアの平均価格は50ドルと約二分の一。アメリカで主流だったTHE NORTH FACEも、REIもその価格帯でチェアを販売していました
従来のチェアとは構造が異なるゆえに、その価値が認められるまでは大変だったという
でも、値段を下げることは考えませんでした。なぜなら、ヘリノックスが開発しているのは、最高の製品だから。「軽さ・堅牢性・快適性」、この3つを叶えるにはどうしてもその値段になってしまう
価格競争ではなく、実際に使って、その価値を認めてもらいたい。最初の数年間は苦労しましたが、ユーザーが増えていくにつれ「オーケー。確かにこれは100ドルの価値がある」。そう言ってもらえるようになりました
──ユーザーの声をもとに改良した点はありますか?
ラ・ジェゴンさん:正直なところ、発売から改良を加えた箇所はほぼありません。致命的な欠陥や弱点がなく、満足してもらえているということかもしれません
強いていうなら、チェアワンに座ったときに背中が後傾してしまうこと。構造上、どうしても深く背もたれに埋もれるようになります。そのため、キャンプで調理する際には、身体を大きく前に起こさなくてはいけない
この問題を解決するために、何年もかけて改良に取り組んでいます。もう少ししたら、皆さんに画期的な新作を届けられると思います
コピーされるのは、人気な証拠
──「チェアワン」は模倣品が多く発売されています
ラ・ジェゴンさん:もちろん、コピー品や偽物は好きではありません。「チェアワン」の特殊な構造は特許申請していますし、それを侵害されることを快く思ったことはありません
でも、「価値のあるギアなら数年で模倣品が市場に出回る。コピーされることは人気な証拠」と考えることもできますよね
「チェアワン」発売後も、コットやテーブルなど革新的なギアを開発している
そういう意味では、「チェアワン」はアウトドアユーザーに受け入れられ、文化として根付いてるのだと思います
コピーされることに目くじらを立てるなら、その時間を新製品の開発に充てればいい。模倣品ばかりのブランドが、画期的なアイテムを作ることはできないのだから
「最初はヒヤヒヤしましたけどね」と笑いながら話すラ・ジェゴンさん
──なかには安価なコピー品もあります。「チェアワン」を使うべき理由は?
ラ・ジェゴンさん:ぜひ、ヘリノックスというブランドの価値を感じてほしいです。例えば、ルイ・ヴィトンの偽物があったとしても、本物の価値は下がらないですよね。本物より安価でも、それを買う理由にはなりません
ヘリノックスも同じだと思っています。「DAC」のポールを使うことでの信頼性や堅牢性は「チェアワン」にしかありません
素直で実直なものづくり
──最後に、先進的なギアを開発し続けるための秘訣を教えてください
ラ・ジェゴンさん:自信を持って言えることは、私たちヘリノックスは常に実直であるということです
どうすればアウトドアユーザーに自然をより楽しんでもえるか、それだけを考えています
ブランド設立から、利益や増やしたり、会社を大きくすることを目標としたことは一度もありません。想像の上を行くような、画期的なアイテムを開発するためだけに前進してきました
「ありがとうヘリノックス。このチェアのおかげでアウトドアライフがもっと快適になった」。そう言ってもらえるモノづくりを続けてきたことが、開発の秘訣です
素晴らしいチェアをありがとう!
多くの模倣品が出回るほど、キャンプ業界の「あたりまえ」を作り上げてきたヘリノックス「チェアワン」。
その登場は、他のキャンプブランドのみならず、私たちキャンパーにも新たな衝撃を与えてくれました。これぞまさに、レジェンドギアですよね。
常に前を向き、革新的なギアを開発し続けるヘリノックスは、今後のどのようなアイテムで新たな伝説を作っていくのか、ぜひ注目していきたいです。
ヘリノックス チェアワン
サイズ | ⚫︎チェアサイズ/W52.5×D50×H65cm ⚫︎座面高さ/33.5cm ⚫︎ケースサイズ/W35.5×H10cm |
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重量 | ⚫︎使用時重量/890g ⚫︎収納時重量/960g |
耐荷量 | 145kg |
素材 | ⚫︎スキン・ケース素材/ポリエステル(100%リサイクル) ⚫︎フレーム素材/アルミニウム・プラスチック |
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