【時代が変わる】パタゴニアとゴア社の協働。新しい「PFCフリーのGORE-TEX製品」担当者にインタビュー

アウトドアカルチャーの牽引者にしてさまざまなアクティビティをサポートするPatagonia（パタゴニア）と、高機能素材ゴアテックスで知られる世界的マテリアルメーカーW. L.Gore（ゴア）社。

それぞれの分野のトップランカーである両者がタッグし、環境や生物への負荷の高いPFC（有機フッ素化合物）不使用でカーボンフットプリントも抑制した、新しいePE(延伸ポリエチレン)メンブレンを採用したPFCフリーのGORE-TEX 製品を開発しました。

10年以上の月日をかけ、いずれ世界のスタンダードになるべくして誕生したPFCフリーのGORE-TEX製品について、パタゴニアとゴア社の担当者から教えてもらいました。

2023/12/01 更新

編集者
CAMP HACK編集部
月間550万人が訪れる人気No.1キャンプメディア『CAMP HACK』。累計制作記事本数は10,000本以上。環境省等の行政機関、「髙島屋」や「niko and ...」といったクライアントとの連携実績多数。また、TBSテレビ『ラヴィット！』等、各メディアで登壇機会多数の編集部員も所属。
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制作者
かないさちお
大学卒業後、編集プロダクションを経てフリーの編集・ライターに。ファッション関係を中心にペットやアウトドア、グルメ、スポーツ、美容など、幅広いジャンルで活動する。趣味は映画鑑賞とテレビゲームだが、ともに娘が生まれて以来まともに絡めていない。ダイエットのため、深夜に代々木周辺を徘徊中。
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長年パタゴニアが取り組んできた「環境への配慮」と「機能性」の両立

「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む。」をミッションとし、環境に配慮しながらアウトドアに欠かせないアイテムを展開してきたパタゴニア。

リサイクルペットボトルが原料のフリースを初めて販売したアウトドアブランドであり、現在も環境に配慮した素材の採用、ギア＆ウエアを使い捨てしないWORN WEARプログラムの実施など、サスティナブルな取り組みに挑んでいます。

出典：Patagonia

アウトドアギアの標準機能といえる防水透湿素材から、PFC（有機フッ素化合物）を排除する取り組みにもイチ早く着手。2019年にはブランド初の、PFCに頼らないDWR（耐久性撥水）加工が施されたプロダクトを発表しました。

さらに2021年、独自に開発した防水透湿素材が採用されるH₂NoシリーズからPFCフリーのアウターをリリース。環境と生き物への悪影響を最低限に抑えた防水ウエアが現実となったわけです。

そもそもPFCって何が悪い？

出典：Patagonia

PFC（のいくつかの化合物）とは、生地に撥水性を持たせるため使われてきた有機フッ素化合物のこと。水や油、汚れを弾く便利な撥水加工剤として、長年さまざまな分野で使われてきました。

しかし、その中のPFOS(パーフルオロオクタンスルホン酸)に有害性があることが判明。自然に分解されない残留性の高さもあって、2000年頃から世界中で代替技術が求められるように。

10年以上かけて開発された、100％PFCフリーの防水透湿素材

出典：Patagonia

パタゴニアも2006年前後にPFOAフリーのDWR加工の研究開発をスタートさせ、段階的にC8と呼ばれるPFOA含有の撥水加工技術から脱却。PFCのなかでは悪影響が少ないと考えられていたC6への移行を進めました。

ところが、C6も有害であるとの研究結果が出たため、PFCを一切含まない次世代の撥水技術が必要になったのです。

©️Hiroya Nakata

パタゴニアはたびたび協働しているゴア社とタッグを組み、十数年に渡って試行錯誤。ようやく昨年、メンブレン（素材）とDWR加工のすべてにおいて100％PFCフリーのGORE-TEX製品を実用化し、リミテッドモデルのハイエンドなスノーウエアに搭載させて話題となりました。

そして今シーズン、「ゴアテックスePEメンブレン」採用モデルのバリエーションを拡充。合計9モデルがレギュラーとして展開されます。

「PFCフリーのGORE-TEX製品」とは？開発者の2社に聞いてみた

全世界が望む革新的テクノロジーでありながら、身近な存在になった「PFCフリーのGORE-TEX製品」。

魅力や誕生までの苦労、メンテナンス方法などを、開発に携わったパタゴニア日本支社マーチャンダイジング部テクニカルライン担当の片桐星彦さんと、日本ゴア合同会社のファブリクス・ディビジョン COFフィールドセールスアソシエートである大貫英昭さんに伺いました。

PFCフリーの新製品を開発するきっかけは？

片桐　まず、2011年にパタゴニアからゴア社へ「パフォーマンスは落とさずに、フッ素のない加工を実現したい」とオーダーしました。いずれPFCフリーの時代が来ると見通しての判断です

大貫　当時は無謀に近い注文でした（笑）。すでに一部PFCの有害性は知られていましたがまだまだ認識が甘く、徐々に削減はできても100％使わなくなるのはもっと先の話だろうと。
とはいえ、我が社は素材開発のプロ。……パタゴニアの期待は裏切れません！

完成まで10年以上。苦労した点は？

片桐　ゴア社はサイエンスカンパニーで、我々はプロダクトカンパニー。パタゴニアにも優秀な設備と人員が配されたラボはあるんです。しかし、素材をイチから生み出すのは厳しい。ゴア社なら可能なうえ、信頼も十分です。実際、オーダーしてから次々と試作が届きました。
パタゴニアは自社のラボで到着したばかりの素材によるプロトタイプを制作。アンバサダーや契約テスターによるフィールドテストも行って、要望や改善点をゴア社に伝えていきました

大貫　それを10数年繰り返し、常にアップデート。相当な数の失敗があったわけです。設定されているハードルが高いので当たり前ですが……

片桐　元々、使い慣れていたPFCによるDWR加工が性能的にはとても優秀なんです。扱いやすく、丈夫で長持ち。水への耐性も十分。このレベルに達するのが容易ではないことはわかっていました

大貫　まず前提として、ゴアテックスブランドは市場やユーザーから期待されるブランドであり、パフォーマンスに責任を持つべき存在だと思っています。
有害性が認められている一部のPFCには世の中を支え、替えが効かない物も存在します。それらは正しく取り扱えば問題は無いですが、代替できるのならばそれに越したことはない。
なので、我々は従来のGORE-TEX製品のパフォーマンスを保ちつつ、PFCフリーという目的を実現する責任があると考えて、このプロジェクトに取り組みました

片桐　そう、求めていたのは「スゴく良い！」ではない。今までのクオリティをどれだけ維持できるかなんです。
10年以上かけて誕生した「ゴアテックスePEメンブレン」は、既存の技術に匹敵する性能。使う側から見れば「ん？」となるかも知れませんが、すでに技術として完成されていた防水透湿素材に負けず、環境負荷が少ないというのはスゴいことなんですよ

従来のゴアテックスメンブレンとの性能の差は？

大貫　メンブレン性能としての差は基本的に無いです。ただ、それを貼り合わせた生地もPFCフリーになっているので撥水性で差がでます。従来の撥水は汚れや油に耐えられるのですが、PFCフリーの表生地は撥油性がなく、油や汚れに弱いんです。撥水性維持のため、マメな洗濯をオススメします。ただ、重量比あたりの耐久性は向上していて、より薄く強くなっているんです