楽しい夏の思い出の大前提は「安全」と「安心」
自然の水の流れの強さや冷たさ、生き物との触れ合いなど、子どもたちの感性や創造力が刺激される「川遊び」。普段の生活では得られない貴重な体験を通して、一足飛びに成長する姿を目の当たりにすることも。
そんな貴重な体験が得られる川遊びですが、一方で、川では毎年子どもの水難事故が多発。リスクを回避して、川遊びを楽しい思い出にするためには、保護者や引率者がしっかり対策を講じる必要があるんです。
「安全」で「安心」な川遊びについて専門家に聞いてみました!
子どもの命を守る対策ならば、やはりその道のプロにしっかりアドバイスをもらいたい! ……ということで問い合わせたのが「子どもの水辺サポートセンター」。
子どもの水辺サポートセンターは、「公益財団法人 河川財団」に属し、関係各省庁や団体等と連携しながら、 水辺での体験活動・環境学習がより広がるよう研究・支援を行っている組織で、いわば川のエキスパート集団。早速詳しくお話を伺って行きましょう!
お話を聞いたのはこちら
河川財団の主任研究員として水難事故防止の調査研究に携わられ、川の指導者養成の全国組織「RAC(NPO法人 川 に学ぶ体験活動協議会)」のトレーナーとしても活動中。
子どもの水難事故の傾向やパターン
安全な川遊びを楽しむためには、保護者によるリスクマネジメントが不可欠。まずは予測可能なリスクを知るべく、子どもの水難事故の傾向やパターンについて教えていただきました。
子どもの水難死亡事故の約6割は「川」と「湖」で発生
2003年から2019年までの警視庁の統計によると、中学生以下の「子ども」の水難死亡事故の6割が川や湖で発生しているんです。
これは、海で亡くなった人数の2倍以上。川や湖沼池はそれだけ子どもにとって身近であり、不慮の事故に遭いやすい場所と言えます。
子どもの水難事故で多いパターン
では、実際に子どもが水難事故に陥ってしまうのはどんなパターンが多いのでしょうか?
子どもの事故でよく見受けられるのは、河岸から転落しておぼれてしまうケース。
特に幼児や小学生では、一人で遊んでいて岸から転落したり、流れや深みにはまっておぼれたり、落としたボールやサンダル等を拾おうとしておぼれたケースがよく見受けられます。
一方、中学生ぐらいの年齢層では、友達同士で増水時に川遊びをしておぼれたり、対岸への渡河や、滝や堰堤で飛び込みをしておぼれたりするケースが目立ちます。
小学生以下のお子さんからは目を離さない、中学生以上のお子さんとは、日頃から“急な増水”や“危険箇所での遊泳”についてよく話し合っておくことが大切ですね。
川遊びの前に把握しておくべき「危険ポイント」
上流から河口付近まで、形も流れる速さもさまざまに変化しながら流れる川には、随所に危険なポイントが。また、水際の苔の生えた石など、水の外にも転落の原因となる注意すべき場所が存在します。
ここでは、その中でも特に把握しておきたい「危険ポイント」について詳しく伺いました。
流れの中に潜む危険「動水圧」に要注意!
川の中では、流れの速さが2倍になれば受ける力は4倍に。3倍になれば9倍です。大人が歩ける程度の流速でも、何かに引っかかると1人では抵抗できないほどの「動水圧」を受けることがあります。
例えば川底の石の間等に足が挟まって転倒した場合、流れの圧力で川底に押し込まれてしまって、顔が水没して息ができなくなる「フットエントラップメント」という状況が起こります。
このような事故は、歩ける程度の浅い場所で発生することが多く、流れのある場所では決して立たず「浮いた状態(仰向けになって足を上げる)」=「ホワイトウォーターフローティングポジション」にすることが重要です。
プールと違って、「流れ」や「見えない障害物」のある川ならではの危険なポイントですね。浅いからと油断しないで、「立たずに浮く」ことをしっかり頭に入れて行動しましょう。
特に危険な「流れ(水理現象)」3パターン
①エディ(反転流)
岸から岩などが突き出た場所の下流側では、「エディー(反転流)」が発生しています。
エディーそのものは穏やかに周回していますが、圧力差の異なる本流とぶつかる箇所(エディーライン)では、下向きに引っ張られる流れが発生し、とても危険です。
写真は「堰堤(えんてい。川を横断するように設置されている落差の小さなダム)」。流れる滑り台のように遊ぶ風景もよく見かける場所ですが、一体どんな危険を孕んでいるのでしょうか?
②リサーキュレーション(循環流)
実は、2つの危険な水理現象を含んでいて大変危険なポイントです。1つは「リサーキュレーション(循環流)」。堰堤の直下流では上流方向に反転する強力な流れが発生し、巻き込まれると脱出が非常に困難に。
また、堰堤の下流付近は洗堀によって急に深くなっていることもあります。
そんな複雑な水理現象が発生する場所だったとは。子どもの頃からよく川遊びしている筆者も知りませんでした……。
③ホワイトウォーター(白く泡立った流れ)
もう1つは「ホワイトウォーター(白く泡立った流れ)」。堰堤直下に見られるような白く泡立った流れは、空気を多く含むため、ライフジャケットを着用していても十分な浮力を得られない可能性があります。
こちらも、感覚的に「危なそう」と避けてはいましたが、具体的な危険性を理解しておらず。改めて、「川遊びの危険ポイント」について識者の方からお話を伺う大切さを痛感……!
橋脚など「人工構造物近く」は特にハイリスク!
①橋脚付近
橋脚の周辺は複雑な流れが発生していたり、流木やゴミ等が張り付いて、ストレーナー(水以外の物質を通さない障害物)となっていることがあるため、近づかないよう注意が必要です。
②水制付近
川のカーブの外側には、堤防等の侵食や洗掘を防ぐためのコンクリートブロック等(=水制)が設置されています。この付近や内部では、複雑な流れが発生しており、隙間にはさまれたり吸い込まれると脱出できなくなる危険性が。
その他、川底の侵食や洗掘を防ぐための「床止工(護床工)」や農業用水等の「取水口」付近も、強い流れに引き込まれてしまう可能性があります。
先にも触れた「堰堤」も含め、「人工構造物付近はハイリスク」と覚えておきましょう!
低体温症にも十分注意しよう!
川の水は真夏でも体温よりかなり低く、また、熱の伝導率は空気の20倍以上。つまり、水の中では体温が非常に奪われやすく、さらに流れの中では時間と共に急激に体温が奪われて「低体温症(ハイポサーミア)」になってしまうことがあります。
確かに、川の水は真夏でも震えるほど冷たいときが。低体温症を防ぐにはどうしたらいいのでしょうか?
川での活動時には、水に濡れても乾きやすい服装や、ウエットスーツの着用など体温低下をできるだけ予防することが大切です。
重度になると命に関わることもある低体温症。特に体の小さい子どもは、十分な注意が必要ですね。
万が一流されてしまったときは、どう対処するのが正解?!
十分対策を講じていても、子どもの行動は予測しづらいもの。万が一、流されてしまったときの対策についても詳しく伺いました!
自分が流されたときの3つの心得
まずは、自分が流されてしまったときの対処方法から。
①むやみに立たない
流れのある場所では、(浅くて足がつきそうでも)立たずに浮くまたは泳ぐ(フットエントラップメント等の瞬時に危険となる事象を避けるため)②元いた場所に戻らない
自分が流された場合、元いた場所に無理に戻ろうとしないことです。(戻ろうとすると流れに逆らうことになり、リスクが増します)③流れの緩やかな場所へ
流れの穏やかな場所を見つけ、「浮いた状態(仰向けになって足を上げる)」で移動し避難します。
この3つを守ることで、さらなるリスクが軽減されて助かる確率が上がるということですね。
また、③で流れの穏やかな場所へ移動するとき、流れに対して直角に泳ぐと簡単に流されてしまうことが。流れに対して、上流側へ斜め45°の角度を取ると自分の推進力と流れの力が合わさり、効率的に川を横断できます。
流されまいと焦ると、対岸への最短距離である直角方向に泳いでしまいそうですよね。これもしっかり頭に入れておきましょう。
飛び込んで助けるのは危険度レベル最上位!
次は、他人が流されてしまったときの対処方法について。
他人が流されたときに、慌てて飛び込んで助けようとするのは最もハイリスク。「セルフレスキューファーストの原則(自分の安全を最優先する)」に従い、可能な限り水に入らず陸上で救助を行うことが重要です。
図の1〜6の順に上がるリスク。慌てて飛び込む前に、陸上でできることを冷静に判断することが大切ですね。
自分以外の人が流されたときに陸上から救助するためのアイテムとして、「スローロープ(水で浮く素材でできたロープ)」があります。万が一のために携行しておくと良いでしょう。ロープの長さは川幅が広い川もあるので20〜25mくらいがベストと言われています。
ただし、25mのスローバッグではそれ自体が重く、飛ばすのにかなりの肩の力が必要です。ロープが絡まる等の危険もあり、使用方法を事前に学び、日ごろから投げる練習をしておく必要があります。
バッグの中にコンパクトに収まった携行しやすいタイプ(スローバッグ)も。子ども連れの川遊びの前に、ぜひ練習して携行したいですね。
ファイントラック スローバッグ 20
子ども連れのグループは“二次災害”に特に注意!
救助行動中の二次災害で特徴的なのは、子どもを含むグループでの事故が多発している点。
同行者がおぼれた子どもを助けようとして飛び込むなどして、二次災害に至るケースが多くみられます。さらにその場合の多くが死亡・行方不明となっています(二次災害での水難者の多くは、保護者や引率の大人、一緒にいた年上の子ども)。
先ほど伺った「セルフレスキューファースト」の原則を守ること、引率する大人もライフジャケットの着用が必須ということですね。
楽しく安全な川遊びのための装備&準備
川遊びの前に把握しておくべき「危険ポイント」について、よく頭に入れた上で、いざ実践……といきたいところですが、ちょっと待って下さい! その危険を回避するためには、しっかりとした事前準備が必須です。
ライフジャケットなど必須装備について
まずは、体を守るために必要な“装備”について教えていただきました。
流れのある川では、大人も子どももまずライフジャケット。水難事故の死因で大きな割合を占めるのが、息ができないことによる溺死なんです。
真水に対して、人が浮いていられる部分(肺に空気を満たした状態)は、実は体の数%程度。そのためライフジャケットを着用して十分な浮力を確保できれば、頭部が水面から出て常に呼吸できるようになります。
浮力の確保という点では、プールなどでは浮き輪を使うケースが多いと思うのですが、川の場合、浮き輪ではダメなんでしょうか?
浮き輪は、静水域では浮力を確保することはできます。しかし、川のような複雑かつ強力な流れのある場所では、ひっくり返るなどしてあっという間に脱げてしまうことが(川には下向きに引き込まれる流れも)。
また先ほどの「フットエントラップメント」を防ぐには、「仰向けになって足を上げる」必要が。そのために最も適した浮力補助具が「流水での活動に適したライフジャケット」なんです。
なるほど。流れのある川では、まさに命綱となるライフジャケットですが、購入する際にはどんな点に注意して選べばいいのでしょうか?
ライフジャケットは年齢や体の大きさ、用途等に合わせたものを選ぶことが重要です。小さな子どもが大きなライフジャケットを着用しても、脱げてしまう、あるいはライフジャケットの浮力が身体に正しく伝達されない場合等があります。
サイズが合わないと脱げてしまう危険性だけでなく、浮力が適切に機能しない危険性があるんですね。
実際に着用して、ベルト等を締めるなど、ライフジャケットが身体に固定されるまでフィットさせること、幼児用及び子ども用については股下ベルトがあってすっぽ抜けない構造になっていること等が重要です。
浮力や強度など、安全基準に関しての認証制度をクリアした製品を選ぶことも、一つの目安に。例えば、「国土交通省型式承認品」のうち股下ベルトがあるもの(子ども用)や、菅原さんが活動されている「RAC(NPO法人 川に学ぶ体験活動協議会)」の認定アイテム、JCIより性能鑑定を受けた「CSマーク」が標示されたレジャー用ライフジャケットなど。
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次に重要なのは足元の装備(フットギア)。水際や川底は不安定で滑りやすい石などがあります。
落水や転倒などのリスクを避けるために、リバーシューズなどの川に適したフットギアはもちろん、かかとがしっかり固定できるスポーツサンダルや水はけのよい運動靴もおすすめです。
かかとのないビーチサンダルなど脱げやすいアイテムは、小学生以下に多い水難事故原因の1つ。流れのある川では体にしっかりフィットする装備が大切ですね。
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気象や水位情報を事前&リアルタイムでチェック
装備を整えただけでは避けられないのが、気象の変化に伴う川の水量や流れの急変。どんな情報をどんな方法でチェックすればいいのでしょうか?
インターネット等で、狭い地域の天気予報をリアルタイムで入手できます。国土交通省では、地域ごとの雨量情報だけでなく、河川の水位情報やダムの放流情報等を「川の防災情報」で提供しています。
「川の防災情報」(国土交通省)はこちら
水量が多くなると流れも強くなるので、事前の情報チェックだけでなく活動中の水位チェックも重要です。
また、今いる場所が晴れていても、上流で雨が降ればやがて下流も増水することに。突然の雷雨など急な気象変化もあるので、気象情報も随時チェックし、悪天候の場合は中止又は予定を変更することも重要です。
事前のチェックだけでなく、活動中にも随時リアルタイムの情報チェックが大切ですね。
水難事故が多発するスポットは要チェック
過去10数年間にほぼ同じ場所で水難死亡事故が多発している「水難事故多発地点」が、日本全国に存在します。「全国の水難事故マップ」で、過去の水難事故発生状況やその地形等をあらかじめ確認しておくと安心です。
また現地には、注意喚起の看板等が設置されていることがあるので、そのような地元情報は特に重要です。
過去に事故が起きているということは、それだけリスクが高い可能性があるということ。自分が訪れる川の過去の事故情報も要チェックです。
「全国の水難事故マップ」(河川財団)はこちら
川遊びで得られるたくさんの「学び」
川や水辺は、豊かで多様な自然の宝庫。決して意のままにならない川の自然や生物と向き合うことで、子どもたちの感性が磨かれ、創造力が養われます。
子どもたちには、普段の生活では得られないたくさんの「学び」や「感動」を川遊びで体得してほしいですよね。
一方で、川や水辺での活動時には、一人一人が自分の身を自分で守ることが求められます。恵みの多い川での活動には、川にひそむ様々な危険を知り、事前の準備と安全管理を行うことが重要です。
子どもたちの安全を管理するのはもちろん、大人も川では危険と隣り合わせであることをしっかり認識することが、楽しい川遊びの大前提ということですね。菅原さん、どうもありがとうございました!
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