文/荒井裕介
鴨のレシピ紹介! 鴨のそばがき
幼少期に父親が作ってくれた思い出の味を、猟師になった今、ようやく再現することができた。
材料/ 3 人分
鴨のムネ肉 ……100g
ニンジン ……1/2 個
ダイコン ……40g
長ネギ ……1/2 本
そば粉 ……150g
水 ……700ml
醤油 ……大さじ1
作り方
❶ 鴨肉を一口大にカットし、油をひかずに焼く。
❷ 野菜をそれぞれ一口大に切る。鍋に水600ml と鴨を入れて火にかけ、沸騰したら野菜も入れる。
❸ 水100ml を別の鍋で沸かす。そば粉を入れて、硬さをみつつ、よくかきまぜるように練る。
❹ ❸を団子状に丸め、中央をへこませる。
❺ ❹を❷の鍋に入れ、火にかける。
❻ 野菜とそばがきに火が通ったら、醤油で味を整えて完成。できあがったら、すぐに保温ポットに移しておくと、時間をおいても温かいまま食べられる。
鴨と野菜の旨味をたっぷり吸わせてどうぞ
長期、短期を問わず、野外での食料計画にはいつも頭を悩ませる。副菜に使う食材はある程度は現地調達を含め、乾燥したものを利用することで軽量化を図ることができる。しかし、主食の部分はなかなか削ることはできない。そこで、主食として米だけではなく、そば粉、小麦粉、オートミールといった軽くてお腹にたまる食材も利用している。
とくに鴨との相性がいいのは、そばだ。獲物が獲れない時でも、そば粉はいろいろな料理にアレンジすることができる便利な食材。なかでも有効で簡単な方法は、そばがきにしてからさまざまなアレンジをする使い方だ。鴨猟のような水場が近くにある猟場は、とくに冷える。そんなときは必ず汁物がほしくなる。そばがきを鴨出汁の汁と合わせるこの料理をおすすめしたい。
子どもの頃、父親が晩酌のあとの締めでよく作っていたのが、そばがきだった。僕は風呂から出てくると、裸のまま、父が食べている横で口を開けて「ちょうだい!」のポーズをしていた。父は普段はワサビ醤油で食べていたように記憶しているが、時々そばがき汁を作っていた。それが子どもの頃の記憶として、鮮明に焼き付いている。父親は職人だが、料理が天才的に上手い。外で食べてきたものの味を記憶して家でいろいろと作ってくれたのだが、僕の記憶の中のうまかったものリストの上位には、なぜかそばがきが残っている。
そばがきのヌルッとした食感と素朴な風味がたまらなく好きだった。親父の捕ってきた鴨で鴨そばがきを食べた記憶が、猟師になった僕の心に急によみがえってきた。山中でそばを打つのは手間だが、手軽でうまいそばがきなら猟場でも作ることができる。
さて、気になる味についてだが、出汁は鴨、味付けは醤油だけでいいと思う。こんなの誰でもできるズボラな料理だと思われるかもしれないが、余分なものを排した料理はシンプルにうまい。そばがきが鴨と野菜の旨味をたっぷりと吸い込み、柔かくヌルッとした食感も絶妙。鴨の脂が適度に溶け出した汁は、野菜の甘さと、一度焼いている鴨の香ばしい香りもするので、味付けは余計なものは入れず醤油だけで十分なのだ。ただし、この味は肉屋で手に入る合鴨では出すことができない。野生の鴨を手に入れることができる猟師だけの楽しみだ。
雉のレシピ紹介! 雉グリル
雉は比較的見つけやすく、撃ちやすいうえに味も絶品。猟師になったら、ぜひ味わってみてほしい。
材料/3人分
雉モモ肉 ……3本
塩 ……大さじ1
胡椒 ……大さじ1
オリーブオイル・大さじ1
作り方
❶ 雉のモモ肉を骨に添ってナイフで刺す。
❷❸ 塩と胡椒を両面に振りよく擦り込む。
❹ スキレットにオリーブオイルをひき温める。
❺ 皮面からしっかりと焼き、旨味を閉じ込める。
➏両面をよく焼き中まで火が通ったら完成。
日本の国鳥は歯応えがあって味わい深い
雉の生息圏は、人間の生息圏と重なる部分が多い。人里や田畑、竹林にもいるため、郊外に行けば簡単に目にできる鳥だ。実は、皆さんが家庭でよく口にしている鶏も、雉科の鳥類に含まれている。食べ慣れているチキンと同種だと思うと、ほかの野鳥と比べてきっと食べやすく感じるだろう。鶏と比べると、雉は山野を駆け回って生活をしているため、筋肉質でよくしまった肉質が特徴だと言える。
さらに、雉のモモ肉には、まさに野生の鳥というべき、しっかりとした食感がある。また、シャモや地鶏とは違う独特の旨味がある。その理由は、食性と生息環境にあるのかもしれない。ミミズや穀物、昆虫を餌として成長し、外敵から逃げるために全速力で走り回る毎日を送る。こうした環境が、雉肉特有の旨味に繋がっているのだと思う。狩猟鳥類のなかではかなり大きいサイズの部類に入るため、一羽撃つことができれば、結構食べでがあることもターゲットとして人気を集める理由のひとつだろう。
初めて雉を撃って食べた時に印象に残ったことは、とにかく肉自体の味が濃いことだ。とくに、モモ肉のうまさには驚かされた。骨付きのモモ肉をグリルにしたこの料理には、猟師飯の代表格といってもいいワイルドさが備わっている。噛んだ瞬間に脂が滴り落ちる歯応えたっぷりの肉に、炭火の香りが加わり、さらに風味を上げてくれる。居酒屋で食べる地鶏の黒焼きよりもずっと香ばしく、旨みも濃いのではないだろうか。
この驚くほどうまい鳥は、日本の国鳥でもある。国鳥を狩り、ワイルドに焼いて食べていると、なんだか不思議な気分になるときがある。味のよさで選んでも、我が国の国鳥にふさわしい鳥肉ではないかと思っている。雉は狩猟鳥類のなかでは、比較的簡単に捕ることができる。「雉も鳴かずば撃たれまい」や「頭隠して尻隠さず」といった誰でも耳にしたことのある諺は、雉の間抜けさとのんびりとした性格を表している。それくらい容易に発見できる鳥なのだ。近年猟師の高齢化や減少により、生息数も増えてきているそう。ハンターになった暁には、まずは捕獲しやすく、おいしさの面でも裏切らない雉から味わってもらいたい。
獲物の生態も掲載。荒井裕介著『サバイバル猟師飯』はこちら!
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