編集部がアイテムを厳選!!CAMP HACK STORE

田中ケン氏連載企画:アウトドアで人生が変わった『僕のターニングポイント・サバイバルレース編』(2ページ目)

レイドゴロワーズ

朝6時。WAJIと呼ばれる。枯れた沢でライドアンドランでスタートした。ここはどこなんだろう、俺はどこに連れてこられたのであろう。そんな不安の中スタートの合図のライフルが沢の中に木魂した。5人に馬2頭、3人は走る。

僕はトレーニングが間に合わなかったので全てを走ることにした。その距離は約40㎞。いきなりのフルマラソンだ。それも地面は砂利道。先が思いやられる。走り始めて1時間。わがチームはいきなりリタイヤの危機に。子供のころから乗馬の経験がある女性のチームメイトが落馬をしてしまったのだ。メディアのヘリコプターが通り過ぎたその音に馬がびっくりし暴走をしてしまった。彼女を振るい落としてしまったのだ。彼女の腕からは大量の出血、スタートして1時間で僕たちのレースは終わったかと思った。

しかし、奇跡的にタイミングよく巡回中のメディカルサービスのジープがやってきた。その場で麻酔もしないで日本では10針は縫うであろう傷を発った3針縫い大きな絆創膏を貼っただけで僕たちはレースを再開した。彼女は泣きながら連れて行ってくれと言った。僕を含め5人の仲間みんながそれぞれの思いを胸にこのレースに参加しているのだ。

アクシデントをどうにか乗り越えレースは3日目に突入していた。1日2、3時間の睡眠。食事も満足にとることができない。食事だけでなく、水もない。僕の肉体の疲労は3日目にはピークを迎え、リタイヤを考えるようになっていた。

この3日目は僕がこのレースに出る意味で最も重要な日だった。普通の親父のようにできない僕はこのレースの完走をこの日1歳の誕生日を迎える、息子、翔の誕生日プレゼントにしようと考えていた。しかし、体はまさに疲労のピーク。言葉では表現できない気持ちで2000メートル以上ある山越えを何個も繰り返していた。名前も知らないある山の頂で、チームメイトとこの時に一緒に行動をしていたフランス人チームと叫んだ!「HAPPY BIRTHDAY SYO!」目の前に広がる空はつながっている。甘えた気持ちを振り払い、完走すると決めた!

レイドゴロワーズ

その後も道なき道をひたすら歩き続ける。今歩いている道があっているのか、間違っているのかもわからない。このレースの一番の難しいところがこのオリエンテーリングの要素だと思う。そう、それはまるで人生と同じだ。上り坂もあれば下り坂もある。生き方に迷えば考えるどこに行けばいいのか?自分は今どこにいるのか?やがて夢を見つけそれに向かって歩き始める。そして、また道に迷う。このレースはまさに人生そのものであった。

レースも中盤を迎えた。シーカヤックの行程のスタートだ。5人チームには2人艇2艇、1人艇1艇が与えられた。オマーンの海岸線を何と120㎞漕ぎ続ける。気の遠くなる距離だ。素晴らしい景色のビーチを3艇のカヤックはスタートした。この後に地獄が待っているとは知らずに・・・。
スタートして1時間。チームメイトが体調を崩した。2人艇前に乗っているメンバーが全身を痙攣させ苦しがっていた。近くのビーチに上陸した。僕だけでなくほかのメンバー全員がリタイヤを覚悟した。意識が戻った彼がリタイヤしないでくれと叫んだ。彼にも彼の思いがこのレ-スにはあった。休憩を取り彼の回復を待ち僕たちはレースへ戻った。

2人艇の前に乗る僕はちょっと嫌な予感がした。波が荒れてきている。案の定、海に出るとき高波を浴びた。気が付くとスプレースカートのゴムが破れていた。波をかぶるたびに僕のコックピットに海水が入りたまっていく。海水で体が冷え意識が朦朧としてきた。そのあとのことは僕は覚えていないが、結局、オマーンの海上警察に助けられ、カヤックのスタート地点に戻され、病院に搬送された。終わった!僕の挑戦は終わったのだ。

レイドゴロワーズ

病院での診断は極度の疲労からくるものだった。この日に海に出ていたほかの何チームもが僕たちと同じ状況になっていた。レース主催者はこれではレースを続けることができないという判断で順位は与えないがレースを続行していい、という特別措置をしてくれた。

この後もマウンテンオリエンテーリング、クライミングを繰り返した。そして、ある情報が入ってきた。レース終盤にあるキャメルライディングが中止になったという。あまりにラクダが言うことを聞かなくて先頭チームがラクダを砂漠のど真ん中に乗り捨てたことでラクダを貸しているベドウィン族ともめてなくなったらしい。まぁ、これがレースなのである。

レース最終日、地図を見ると迷いさえしなければ後50kmだ。もちろん平たんな道を行くわけではない。夜が明ける前にヘッドライトの明かりを頼りにスタートする。何時間歩いたのであろうか、砂漠の中にたった1本の木があり旗がついているだけの素朴なゴールだった。順位は与えられない枠外という形の完走だった。

2 / 3ページ