同じシアトルのバッグブランド、されど生い立ちは十人十色
今回は、ゆったりとした風が流れるシアトルのとあるバックブランドを取材レポート。
シアトルに腰を据えてモノづくりに励む者、はたまた流れ者のようにしてシアトルにたどり着いた者などルーツは様々。そんなルーツの異なる3つのブランドへの取材で見えてきた、シアトル独特のモノづくりやオリジナリティ溢れる現場をお届けします。
Swift Industries ~そこまでハイテクじゃないけれど、機能はしっかり~
キャンプツーリングに魅せられた夫婦が生み出した、ちょっとだけレトロなスタイリングのバッグ。
世界中のコアな自転車乗りから支持されるHand made in SEATTLE.
右のオゼット・ロングライドバッグは大きめの荷室が特徴。$225。左のサイトガイストツーリングサドルバッグの素材はコーデュラで頑丈。リフレクターも付く。$132。
そのポップで独特なカラーリングと使い勝手の良さから、日本でも人気の高いサイクルバッグメーカー、スイフトインダストリーズ。ここもまた、2008年のスタート以来、ずっとハンドメイドでバッグを作っている。
伝統的なトレイルメダリオンにインスパイアされてデザインされたという、スイフト特製ヘッドバッジ。
6月に全世界同時開催した、「SWIFT CAMPOUT2015」を記念して作った限定のワッペン。
ブランド名にあるSwiftとはスイフトギツネというアメリカ生息する狐の事であり、『迅速な』という意味の単語でもある。語感からするととても速そうだが、彼らの根底にあるのはバイクツーリング。どちらかというと、急がず焦らずな感じである。彼らのアトリエと直営のショップは、シアトルの中でも特にセンシティブな街、バラード地区の歴史あるビルの中。
「アトリエでは社員5人総出でバッグ作りをしているの。世界中のショップから注文が入るのでミシンも私たちもフル稼働よ」
そう話すマルティナさんはデザイナー。彼女はメッセンジャーバッグのブランド、R.E.Load Bagsで働いていた事もあり、サイクルバッグ作りに造詣が深い。
「だけど、卸だけじゃなくて直接お客さんの顔が見たいし、世界観を見せたいし、逆にお客さんに作っている所を見せたい。だから上の階にショップも作ったの。みんなが来るのを待ってるわよ!」
ショップのカウンターに立つ、創設者のマルティナさんとジェイソンさん。二人で行った西海岸のロングライド旅行でバイクキャンプに目覚め、ブランドを始めたという。
商品管理のソニアさん。バッグの表地にリフレクターを縫い付けている真っ最中。
付属のアタッチメントにより、ワンタッチで着脱可能なバッグ。X-PACナイロンで防水性と強度を確保。
オリジナルTシャツも展開。メンズ、レディス両方でサイズを用意している。$20。
ショップではTENKARA.CO.のロッドやフライも販売。その為かフライ柄のバンダナの姿も。
サイクルバッグメーカー『スイフトインダストリーズ』
https://www.builtbyswift.com/
Ferdinand’s ~西部の魅力を詰め込んだジェンダーレスなバッグ~
デニムとディアスキンで構成された頑丈なデイパックは最近完成した新作。使い続ければ、ものすごく良い経年変化が楽しめそうだ。
デーン・アルダーファーさんとその奥さんであるベニーさんが始めたバッグブランド『フェルディナンズ』。デザインから縫製まで2人の手で行われるため、基本的に地元のファーマーズマーケットに出展した時か、限られた3つの卸先に行かないと買えないと言う、シアトルでも知る人ぞ知るブランドだ。
工房はクリエーターが集まる雑居ビルの中。作業中のデーンさんを訪ねた。
愛読書は父親から譲り受けたという、1959年発行の本「America’s Wonderlands」。アメリカの国立公園について記されたもので、インスピレーションの源でもある。
「僕の叔父はオレゴンの東の方で牧場をやっていて、小学校の夏休みはずっとそっちで過ごしていたんだ。その経験からか、いつしか僕もウェスタンかぶれになってしまったんだよ(笑)」
フェルディナンズは、ノースウェストの伝統的な素材とデザインをイメージソースに、キャンプやアウトドアで使えるような商品を展開している。
そうはいっても、西部劇に出てくるような古臭く、土臭いアイテムだけを作っているかというと、そうではない。デーンさんはシアトル育ち。海も身近な存在としてあるので、セイルクロスを使った爽やかなバッグもラインナップしている。彼曰く、ブランドのテーマは『ウェスタン・パシフィック』。海と大地がクロスオーバーした新しい感覚が魅力だ。
ヨットの帆に使われているセイルクロスで仕立てたデイパック。軽くて丈夫で撥水性もある。$175
初期の頃から作っているという、ブランケットとレザーがコンビになったダッフルパック。$225
帆布をリサイクルしてつくられたトートバッグは、バックパックとしても使用可能。$88
アトリエがあるのはこのビルの3階。後に登場するスイフトインダストリーもここに入居している。
ディアスキンやハラコを使用して作られた、女性向けの小さなレザーのバックパックも。
ファーマーズマーケットに出展する際はこれらの什器も搬入するとか。3階から運ぶのは大仕事。
ヌメ革でつくられたスキレットのハンドルカバー。経年変化が顕著に出そうなアイテムだ。$20
ウェスタンが好きで、馬に乗ることもあるというデーンさん。ストローハットが良くお似合い!
机の上にはヴィンテージモノのワッペンも。スワップミートで気になって買ったものだとか。
バッグブランド『フェルディナンズ』
http://www.ferdinandsco.com/
Teranishi ~全米を飛び回って辿り着いた場所~
ワックスドキャンバスとレザーがコンビになったバックパック。哲平さんが一からパターンをひいて作り上げた、風格のある一個。
侘び寂びの心を持ったアメリカ人、その名は寺西哲平。風光明媚な島でひっそりと作られる若き職人の伝統を重んじたモノづくり。農的生活も営む、自然派志向のバッグブランドに迫る。
バション島は四方を海で囲まれており、フェリーでしか上陸できない自然豊かな土地。彼の地にはアメリカらしくない名前のブランドがある。その名も「TERANISHI」。これはカリフォルニア・オレンジカウンティ―出身の日系二世、寺西哲平さんが3年前にスタートした、革小物とバッグのブランドだ。彼は『Thrice』というポスト・ハードコアバンドのギタリストとして活躍した、アメリカではちょっとした有名人。
左から哲平さん、スタッフのマイケルさん、アンソニーさん。休憩の合間にバイク談義が始まった。みんな1970年代の日本製バイクに乗る旧車好きだ。
「10年ぐらいメジャーで音楽をやらせてもらっていたけど、ツアーで常に飛びまわっている生活が嫌になって、一昨年にバンドを休止。落ち着いて暮らしたいと考えた時、ツアーで昔立ち寄った、このバション島を思い出して引っ越してきたんだよ。それで、趣味でレザークラフトをやっていたんだけど時間も出来たし、もっと真剣に取り組んでみようと思ってブランドを始めたっていうわけ」
型押ししたレザーのコースター。ブランドのロゴはテラニシ家の家紋がモチーフとなっている。
日本語があまり得意でないという彼だが、工房にあった彼のインスピレーションボードには、半纏や、刺し子の生地が張られている。そしてブランドのロゴは家紋。日本をリスペクトしているのだ。生地はアメリカのものを使い、スタッフと共にハンドメイド。今度はバッグでメジャーを目指す。
最初、1人の時はメイド トゥ オーダーで商品を作っていたというテラシニ。現在は口コミで人気が出て、3人でバッグを使っている。日本ではJ.S.homesteadに卸しているとか。
パターンをひいてレザーの型抜きを行うところから、縫製、仕上げまで、全工程が工房内で完結する。
哲平さんはバション島に移り住んでから野菜を育てるようになって、鶏も飼い始めた。
彼らが取り扱うレザーはすべてアメリカ・ホーウィン社のもの。素材の表情が活きた小物達。
ジップでサイドからもアクセスできる、ロールトップのワンショルダーバッグ。$175。
革小物&バッグブランド『TERANISHI』
http://www.teranishistudio.com/
雑誌「HUNT」とのコラボ企画
自分が作りたいものを作れるその土壌がとても印象に残ったアメリカ・シアトル。海も近いこともあり自由な風土が漂うおかげなのか、独特なモノづくりが目立ちましたね。
この取材は、雑誌「HUNT」に掲載されたもの。
狩猟をテーマにした雑誌ながら、海外のアウトドアな風土を届けてくれる貴重な雑誌「HUNT Vol.11」2016年春号が発売中です。お見逃しなく!