アウトドア業界の持続可能な発展のためのカンファレンス。「OIS 2018」の内容をレポート

2018/12/25 更新

2018年12月12日に東京国際フォーラムで開催されたアウトドアイノベーションサミット(OIS)2018。アウトドア業界のみならず、IT業界や自然研究機関、官公庁からもゲストを招いての貴重な講演が繰り広げられました。その講演内容のハイライトをお伝えします。


OIS これまでの歩み


2016年に約100名のキャンプ場リーダーを集めて開催された「キャンプイノベーションサミット(CIS)」。翌2017年にはテーマを「キャンプ」という枠からアウトドア全体に広げ、イベント名も「アウトドアイノベーションサミット(OIS)」に改定。今年は500人を超える来場者を集め、アウトドア業界最大規模のカンファレンスとなりました。
2017年のレポートはこちら

OIS 2018のメインテーマは「持続可能性」

今年のOIS 2018開催にあたり課題として掲げられたテーマは「アウトドア業界の持続可能な発展」。豊かで美しい自然があるからこそ成り立つアウトドア業界を今後ますます発展させていくためには、「持続可能性」の実現は避けては通れない課題だからです。

アメリカにおけるアウトドア業界での持続可能性への取り組み


そんななか今回のOISの目玉のひとつとなったのが、アメリカのアウトドア業界団体「OIA」(OUTDOOR INDUSTRY ASSOCIATION)のベス・ジェンセン氏による基調講演。具体的な活動事例をもとに、サステナブルビジネス先進国ともいえるアメリカの状況を紹介していただきました。

OIA Senior Director of Sustainable Business Innovation ベス・ジェンセン氏


この会場のなかで「HIGG INDEX(ヒグインデックス)」をご存知の方はいますか? HIGG INDEXとは、アウトドア業界を含むすべてのアパレル関連企業の環境持続性を測るためのツール。OIAではこのHIGG INDEXの策定に関わってきました。そして、企業がこのHIGG INDEXの基準を満たすための様々なサポートを行っています。現在OIAには約1300社が会員企業として登録しており、みなさんもご存知のノースフェイス、パタゴニア、アークテリクス、ゴアテックス社なども会員として名を連ねています。

またOIAでは、それぞれの課題の解決のためにグループで取り組んでいます。たとえばアウトドアギアを作る際の化学物質にフォーカスしたケミカルマネジメントのグループでは、テントやウェアの防水加工や難燃加工を施す際に用いられる化学物質の取り扱いに関する情報をまとめ、企業や工場に提示しています。

そのほか近年問題が取り沙汰されているマイクロファイバーの問題に取り組んでいるグループも。マイクロファイバーとは、ポリエステルなどの化学繊維製のウェアから細かい繊維が海に流失し汚染物質となる問題です。どのようなタイプの生地から繊維が抜け落ちているのかを調べるほか、規制当局とも連携してこの問題に関する法整備なども進めています。

アニマルウェルフェア(動物福祉)のグループでは、ダウンやウール、革製品など、動物由来の素材を用いた製品を作る際に動物の尊厳が守られているかをチェックする基準を作成しています。このほか気候変動に取り組むグループや選挙戦で環境問題に取り組む議員候補者を応援するキャンペーンなど、さまざまな領域で活動しています。

今日発表した私たちの活動内容が、今回お集まりの皆様の活動のヒントになれば幸いです。Thank you.

日本における海洋ゴミとマイクロプラスチック問題への取り組み

ベスさんの話のなかで、近年話題になっているマイクロファイバーの問題がありました。この問題について取り組む日本の専門家による2講演をご紹介します。

大阪商業大学公共学部 准教授/NPO法人プロジェクト保津川代表理事 原田禎夫


近年、海洋プラスチックゴミは魚、貝類、海鳥など海の生き物に対して深刻な影響を及ぼしていることが分かってきました。多くの海鳥がプラスチックゴミを誤って口にし、胃袋をパンパンにして苦しみながら死んでいます。最近では海水を原料に作られる塩からも微細なプラスチック繊維が見つかっており、私たち人間の体内への侵入も危険視されています。

また海のなかだけでなく、世界各地の海岸はプラスチックゴミで溢れています。ではこのゴミはどこからくるのか。じつは海洋プラスチックゴミの6〜8割は海ではなく陸上で出たゴミなんですね。この問題に対して、「ポイ捨てはやめよう」と個人に訴えてもあまり効果はありません。

個人に訴えるのも大切ではあるのですが、それ以上に大切なのは、プラスチック製品を使わない、使わせないという社会の制度設計。たとえば欧米では北欧を筆頭にレジ袋やプラ容器など、石油由来の梱包製品は急速に姿を消しています。ハワイ州ではアメリカではじめてレジ袋の使用を禁止しました。このように社会の仕組みを変えていくことが重要なのです。

私の地元である京都府の亀岡市では、市議会と協力して日本ではじめて脱使い捨てプラスチック宣言をします。私もこの運動に関わっているのですが、市内の全店舗にレジ袋有料化を呼びかけ、いずれはレジ袋を廃止していけたらなと考えています。

コンサベーション・アライアンス・ジャパン幹事 篠健司


いま原田先生からお話があったのは主に数ミリから数センチのプラスチックゴミについてでしたが、私からはもっと細かい、いわゆるマイクロファイバーの問題をお話しできればと思います。

私は普段パタゴニアという会社で働いています。パタゴニアの製品で実験をしたところ、フリース製品を洗濯する際に多くのマイクロファイバーが抜け落ちることが分かりました。フリースのウェアは暖かく機能的ではありますが、海洋ゴミの排出源になってしまっている。その事実を真摯に受けとめ、改善のためにこの問題に取り組んでまいりまいた。

さまざまなフリース素材を調べたところ、質の高いフリース素材からはマイクロファイバーが出にくいことが分かりました。パタゴニアでは製品の品質をさらに高めていく努力を重ねています。

またカルフォルニア大学サンタバーバラ校と協力し、家庭での洗濯でマイクロファイバーがどのように環境を汚染するかという研究も行いました。この結果をもとに、洗濯時にマイクロファイバーを流失させない洗濯バッグも開発、販売もしております。

近年、アパレル業界における持続可能性で重要なのは、マイクロファイバーだというのが世界的な常識になっています。このような潮流もあり、パタゴニアでは今後、下水の処理システムでマイクロファイバーをキャッチする仕組みを作れないかと考えています。

革命的な新時代の基幹素材の開発


動物由来の素材を使った服って着心地がいいですよね。実際に高級品として販売されている衣類も多く見られます。しかし、ノースフェイスなどを運営するゴールドウインではここに落とし穴があると説きます。

株式会社ゴールドウイン取締役副社長執行役員 渡辺貴生

株式会社ゴールドウインは、1978年からノースフェイスの事業に携わってきました。ノースフェイスでは、自然保護の大切さを伝え続けていくことを企業のミッションとしています。

これまで製品を作るうえで、カシミアなど動物由来の素材も使わせてもらってきました。このカシミアヤギはモンゴル、中国、イランなどに生息しているのですが、彼らは植物の根っこまで食べてしまうため土地の砂漠化が深刻化しています。その一方で、アパレル業界の繊維需要は右肩上がりで増え続けています。このままでは、砂漠がどんどん広がってしまう。そこでゴールドウインは3年前からとあるバイオベンチャーと提携し、ウールやポリエステルなど既存の繊維の代わりとなる素材の開発を行なってきました。

そこで私たちが注目したのはがタンパク質。タンパク質は私たちの体も構成する物質です。いくつも種類のアミノ酸の組み合わせパターンによって爪や髪の毛、皮膚などさまざまな細胞を作っている。このアミノ酸の構成方法を研究すれば、糸だけでなくウールやカシミアのような特殊な繊維も作れるのではないかと開発を進めてきました。

このアミノ酸の原料となるのはサトウキビ。サトウキビの糖分を発酵の作用で繊維に変えていく。ポリエステルなどの化学繊維は高温高圧の状態で作るのでエネルギーを大量に使います。これに対しサトウキビの繊維は常温常圧で作れるのでエネルギーもかからない。おまけにサトウキビは二酸化炭素も固定してくれます。

この繊維はもちろん自然に還るので、先ほどから議題になっている海洋のマイクロプラスチック問題にも有効ですし、砂漠化を止めることにも繋がります。私たちとしては、この技術をできるだけ早く業界全体に広め、産業として発展させていきたいと考えています。

我々はノースフェイスの創業者から、「世界というのはもっと早く良い方向に向かっていくべき」というビジョンを学んできました。そして製品開発だけでなく、産業自体の形を変えていくことが重要だと考えています。そのためには、OIAのベスさんもおっしゃっていたように、産業全体が一丸となることが重要なのです。イノベーションで新しい社会を作っていく。ゴールドウインはこれからもそういった姿勢で素材開発にちゃんと取り組んでいきたいと考えております。どうぞ今後とも、よろしくお願い致します。

【まとめ】OIS 2018を終えてこれから

株式会社スペースキー代表 佐藤祐輔

OIS実行委員会代表で株式会社スペースキー代表の佐藤氏は開会の挨拶で、「アウトドア事業の持続可能な産業発展のためには、環境保全だけでなく地域振興、そしてアウトドア人口の増加、この3つのテーマが相互に作用していくことが重要だ」と語られました。

そしてOIS 2018では、このレポート記事でお伝えした「環境保全」をテーマとした講演だけでなく「地域振興」「アウトドア人口増加」をテーマとした講演、セッションも行われました。


ひとつの企業だけでアウトドア業界を変えられないように、アウトドア業界だけで社会のカタチを変えることはできません。今回のOIS 2018をきっかけにアウトドア業界と地方行政や研究機関との連携がさらに密になり、持続可能なアウトドア産業の発展がますます進んでいくことが期待されます。

【協賛企業】


里山通信
METOS
高知県
株式会社ドコモCS
株式会社NEBY
ファイヤーサイド株式会社
三菱製紙販売株式会社
サントリー食品インターナショナル株式会社
ビクトリノックス・ジャパン株式会社

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CAMP HACK 編集部

CAMP HACK運営&記事編集担当。少しずつキャンプの回数も増えていき、いまは月2~4回ほど全国のキャンプ場を訪問中。今年はテントから色んなギアを新調して、新しいスタイルに挑戦したい。

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