たとえば、Great Cossy Mountain のバックパックは基本的に一枚布を封筒状に縫い合わせることでできあがっていますし、コッシルシェルターと名付けられたワンポールシェルターに至っては、一枚布を1ヶ所縫い合わせているだけ(もちろんポール受けやガイライン基部など細かい部分の縫製はしていますが)という度肝を抜かれるほどのシンプルさなのです。
それを単に「素朴」と感じる人もいるでしょう。ですが、縫製箇所が減ればそのぶん強度は上がりますし、軽量化にもなります。故障しても修理しやすく、シンプルな道具はトレイルでの行動や生活をよりシンプルにもしてくれます。
そして、そんな Great Cossy Mountain 最大の特徴であるシンプルさを最大限に生かす試みが、今回の POP HIKER Simple Pack “MYOG” Kit と名付けられたバックパックの自作キットなのです。
ULの伝統である自作バックパック
ともあれ、「バックパック」と「自作」という言葉に相容れないものを感じる人も多いかと思います。ですが、ULバックパックのオリジンである Ray=Way Backpack はキットのみで販売されていますし、もうひとつのオリジン、Gossamer Gear G4 もインストラクションがフリーダウンロードできます。
ULバックパックやタープといったULの基本的な道具は設計がシンプルなこともあり、ULカルチャーにおいてMYOG(Make Your Own Gear)と呼ばれるギアの自作は、トラディショナルなマナーのひとつでもあるのです。
しかも、POP HIKER Simple Pack “MYOG” Kit の設計は Ray=Way や G4 よりさらにシンプルですし、日本語で書かれた写真入りの説明書まで付属しています。
Ray=Way を主宰するULハイキングの始祖、レイ・ジャーディンは自分でギアを自作する意義を、こう語っています。
「一般的に信じられていることとは反対ですが、店でギアを買う必要はありません。あなたは自分で作ることができます。そしてそうすれば、あなたは消費者心理から大きな自由を得て、それはあなたの人生に大きな変化をもたらします。(中略)ミシンを使うことは、車を運転するようなものです。自動だし、とても簡単です。(中略)だから先に進んで、古い考えから脱出してください。あなたのパラダイムを、それを購入するのではなく、自分のギアを作ってシフトしてください」(www.rayjadine.comより。筆者訳)
かつてこの文章を読んで鼻の穴を大きく広げた筆者は、早速 Ray=Way Backpack Kit を購入しました。が、英文で書かれた簡素な説明書と素材がゴロッと入った「キット」に尻込みし、そのまま数年間、箪笥の肥と化していることは言うまでもありません……。
だけど、コッシーのキットなら作れるはず! しかも本人の指導付きなら……と、この取材を口実に西千葉にある Great Cossy Mountain の工房に押しかけたわけです。
いざ制作!
POP HIKER Simple Pack “MYOG” Kit は本体とショルダーハーネス用のPUコーティングナイロン生地と開口部用の薄手のナイロン生地、ショルダーハーネス用のメッシュ生地とパッドの心材と型紙、ストラップ用のテープとコード、各部のスライダーパーツ、インストラクションからなります。
分厚いインストラクションはステップごとに写真で解説されており、Ray=Way Backpack Kit とは雲泥の差。手順も非常に細かく説明されているため、基本的な縫製の知識のない初心者にもわかりやすそうです。
作業はまずは切り出し作業から入ります。本体用生地を本体用とショルダーハーネス用に切り分け、テープ類も指定のサイズに切り出し、断面をライターで溶かして処理しておきます。
ショルダーハーネス生地を型紙に沿って切り出し、まずはチェストストラップとショルダーハーネスのバックル基部の縫い付けます。
これまで数回しかミシンに触ったことがないので初めはおっかなびっくりでしたが、コッシー先生のご指導もあり、それなりに形になってきました。
コッシー先生のミシンは定価8~9万円ほどのものだとのことですが、やはりそれなりに良いミシンの使いやすさを実感。厚手のポリプロピレン製テープが何重かに重なってもサクサク縫えます。
メッシュ生地と縫い合わせ、不要な部分をカットし、中にパッドを差し込むとちゃんとショルダーハーネスの形になりました。さっきまで単なる生地とテープだったものが立体的な「モノ」になったことに、ちょっと感動! ここまでの所要時間は2時間ほどでした。