イラストと料理、どちらも自然に続けてきた仕事

関根千種さん(Instagram:@chigu23)は、埼玉を拠点に活動するイラストレーターであり、アウトドアフードスタイリストでもあります。
キャンプ場のマップやイベントポスター、アウトドアブランドのビジュアル制作から、屋外イベントでの料理ワークショップや広告撮影のフードスタイリング、レシピ制作まで、イラストと料理の両方でアウトドアとつながる、少し珍しい働き方をしています。

仕事の比率はその時々です。料理が続く時期もあれば、イラストがまとまって入る時期もあって。“どちらが主役”という意識はあまりないんです。
料理の起点は、学生時代の調理師学校。卒業後はカフェで働きながら、キャンプイベントの企画運営や、ケータリングのお手伝いなどをしていました。一方、イラストは完全に独学。

子どもの頃からずっと描いてきたわけでもないし、勉強していたわけでもないので、正直、仕事になるとは思っていませんでした(笑)。でも、好きで続けていたら、少しずつ声をかけてもらえるようになったんです。
ニュージーランドで見えた“自分のペース”

2019年5月から約10ヶ月、関根さんはニュージーランドへワーキングホリデービザで行っていました。そこで芽生えた“自分のペース”という感覚が、のちの働き方を支える軸になっていったそうです。
ワーホリの年齢上限に気づいて、“今行かないと行けなくなる”と思い立ったんです。
ニュージーランドでは自然が身近で、働きすぎずに暮らす人が多くて。そこで初めて、自分のペースで働くってこういうことか、と実感できました。

自然に囲まれた土地での体験は、生活と働き方のバランスを見直すきっかけに。
でも帰国後はコロナ禍で動けず、「仕事がなく、どうしよう」と思っていたそうです。そんな予想に反して、キャンプ人気が一気に高まり、その流れと重なるように仕事が入ってきます。
帰国後、フード関係の仕事を頼んでもらうようになり、外で料理を作る現場に呼んでいただくことが増えたんです。フードコーディネートや屋外でのケータリングでの料理を任せてもらうようになって、“どんなふうに見せるか”を考えながら作るのがすごく楽しくなりました。
そういう経験を積むなかで、少しずつ自信がついていったと思います。
長瀞オートキャンプ場との出会い

趣味だったイラストが仕事へつながるきっかけのひとつとなったのが、今回のロケ地でもある長瀞オートキャンプ場。発端は、Instagramに投稿していた作品だったそうです。
長瀞オートキャンプ場のスタッフさんがたまたま私のInstagramを見てくれて。「こういうの頼んでもいい?」と声をかけてもらったのが最初でした。

そこからイベントポスターやグッズ、場内マップなど、多くのイラストを担当するように。2019年10月の台風被害後、復興クラウドファンディングで使用されたステッカーのイラストも関根さんが手掛けました。

キャンプ場にあった木がほとんど流されてしまったと聞いて。“また木が大きく育って、キャンパーさんたちで賑わう未来と希望の光”をイメージして描きました。
当時、私はニュージーランドに滞在中だったのですが、遠くから関われたのも嬉しかったです。

長瀞オートキャンプ場の代表・伊藤文子さんに関根さんのイラストについて聞いてみると、
「キャンプ場の空気感とぴったりの雰囲気で、お客さんからもとても好評です。チグちゃんのイラストは、 “やわらかさ”や“あたたかさ”をそのまま形にしてくれるんです」と話してくれました。
関根さんにとっても、長瀞は自分のイラストがアウトドアの現場で役に立つと実感できた原点。今回、久しぶりに訪れたことで、駆け出し当時の気持ちを思い出したようです。
イラストと料理は“キャンバスが違うだけ”

イラストと料理、異なる仕事を同時並行で進めるには使う脳みそも違いそうですよね。でも、関根さんは至って自然に行き来しています。
フードスタイリストの仕事は、料理をテーブル上でスタイリングすること。実はキャンバスが違うだけで、イラストと似ているなと感じることがあります。

料理は食材を皿やテーブルで構成する“立体のデザイン”。イラストは色や線、余白で構成する“平面のデザイン”。手法は違っても、どちらも「どう見せたいか」を考える点で共通項があるそうです。
また、両方ともアウトドアが現場だけに、自然光や風といった“外の要素”が作品に溶け込んでいくそうです。

撮影:猪俣慎吾
アウトドアと地域の食をつなげたい

関根さんが近年とくに興味を寄せているのが“地域の食”です。
日本には身近にいい食材や食文化がたくさんあるのに、廃れそうになってしまっているものもあります。それをアウトドアと絡めて楽しみ方を伝えることに興味があります。
ただ地域の食材を使うだけではなく、その土地にある物語と組み合わせて、どうアウトドアで知り、楽しめるか。
レシピ制作やワークショップなど、アウトドアと地域を結びつける取り組みも少しずつ広がっているそうです。

外で食べると、食材の味がまっすぐ届いて、その土地の良さがいちばん素直に伝わります。だからこそ、地域の食材をアウトドアで楽しむことに大きな可能性を感じています。
北海道は“働き方を整える場所”

仕事のペースを守るため、もうひとつの拠点として関根さんが注目しているのが北海道です。
夏の暑さから逃れるためでもあり、一度違う環境に身を置いて新たなインプットや刺激を求めてみようと思い、プチ留学のような気持ちで行ったのが最初です。それで行ってみたら本当に気持ちよくて。
朝、山を歩いてから仕事をすることもでき、この“自然と町が近い暮らし”は頭が整う感じがするんです。

ときには仕事を持っていき、ときには少し違う文化を体験する感覚で過ごす。そのリズムの変化が、料理とイラストの両方に必要な“余白”になっているそうです。
ニュージーランドで得た“自分のペースを大事にする働き方”を、日々の暮らしの中でも守るために。北海道は、関根さんにとって気持ちを整え直す大事な場所になっているようです。
細く長く、続けることが道になる

アウトドアの仕事で独立して早5年。関根さんが強く感じているのは、続けることの大切さです。
アウトドアが好きだからと安易に飛びついて、“やっぱ違った”で終わってしまうと、この仕事の魅力の1割しか見えてない気がします。この業界は横のつながりが強いので、やりたいことがあれば、ずっと言い続けることが大切。意外なところから新しい仕事の話がくることもあって、人とのつながりって大事だなと感じています。

二つの仕事を、その時々の流れに合わせながら自然に続けてきた関根さん。どちらも無理に広げるのではなく、好きだから続けてきた仕事です。
一気に答えを出そうとせず、興味があることを細く長く続けてみてほしいです。続けていれば、思わぬところでつながる瞬間があるので、諦めないでほしいです。
関根千種さんのInstagram:@chigu23
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