世界最大の花・ラフレシアを見に行く

コタキナバルから車で約1時間半、山道を進んで「ラフレシアセンター」へ向かいます。
到着後、受付のおじさんに確認すると「今日は2輪咲いている」とのこと!
開花までに2年、開花後わずか3日で枯れてしまうという“幻の花”ラフレシア。その貴重なタイミングに立ち会えるとは思ってもいませんでした。

ガイドさんの案内で、徒歩15分ほどの場所へ。道中では高さ100メートルを超える巨木や珍しい昆虫、植物なども観察でき、自然好きにはたまらないルートです。


歩き始めて15分ほどすると、森の中にラフレシアが咲いているのが見えてきました。周囲が一面緑に包まれている中、突如として現れる大きく鮮やかな赤色の花は、まるで異世界の植物のようで、どこか異様な雰囲気を漂わせています。
ラフレシアは「死臭」のような強い匂いを放つことで知られていますが、この日は雨が少なかったせいか、それほど臭いは感じられませんでした。

ラフレシアの咲いているすぐそばには、特徴的な丸い球のようなものがいくつも転がっていました。ガイドさんによると、これらはラフレシアの蕾なのだそうです。ほんの少しでも触れたり、位置を動かしたりすると枯れてしまうほど繊細で、改めてこの花の不思議さに驚かされました。
スコールでホテル泊に予定変更。安全第一で

ラフレシアセンターを後にして間もなく、まるでゲリラ豪雨のような激しいスコールが一帯に降り注ぎました。天気予報を見ると、この雨は夜まで続くとのこと……。
本来は今夜もテント泊の予定でしたが、翌日からはいよいよキナバル山への登山が控えていたため、急きょホテル泊に切り替えることにしました。
もともと「絶対にテント泊!」とこだわっていたわけではありませんが、息子も一緒ですし、やはり安全第一ですね。

いよいよ東南アジア最高峰・キナバル山登山スタート!

登山の起点は「キナバルパーク・ヘッドクォーターズ」。山小屋とガイドの予約は事前に必須で、当日は許可証発行や保険、ガイド料などを支払います。
宿泊予約は、「Sutera Sanctuary Lodges」というサイトから行うのが一般的です。こちらで宿泊を予約すると、自動的に登山枠も確保される仕組みになっています。

現地の受付では、以下の料金を支払います。
・国立公園保護料
・ガイド料
・登山許可証発行料
・保険料
また、希望に応じて以下のオプションも利用できます
・登頂証明書発行費
・ポーター代
・登山口〜登山道起点間の往復送迎費
すべての準備を整えて、安心・安全な登山を楽しみましょう。
頼もしいガイドさん登場

山小屋のチェックインを済ませた後、各カウンターで必要な料金の支払いを行います。すると、まるでドラクエⅢの「ルイーダの酒場」のように、ガイドさんが現れます。

今回、私たち親子のガイドを担当してくれるのは、マレーシア人のサイグルさん。なんとキナバル登山は通算2,000回以上、ガイド歴も22年という大ベテランです。これほど頼もしい存在はありませんね。

朝の8時に登山を開始。天気はまさに快晴。これ以上ない絶好の登山日和となりました。
森の中を進んでいくと、木漏れ日が差し込み、なんとも清々しい気持ちにさせてくれます。

登山口のスタート地点には売店もあり、行動食や飲み物などを買い忘れてしまった場合でも、ここで購入することができます。登山前の最後の準備として、ぜひチェックしておきたいポイントです。
キナバル山には、世界中から多くの登山客が集まってきます。東南アジア最高峰(標高4,095メートル)というだけでなく、その周辺地域は希少な動植物にあふれた“熱帯の楽園”とも言える場所です。
世界最大の花とされるラフレシアや、食虫植物として知られるウツボカズラなどが自生しており、豊かな生態系が広がっています。こうした自然環境の価値が認められ、キナバル山とその周辺は2000年にユネスコ世界遺産に登録されました。
大自然の懐にそびえるこの美しい山は、世界中の自然を愛する人々の心を惹きつけてやみません。

キナバル山の特徴のひとつは、その登山道の整備状況です。道は非常によく整備されており、なんと約9割が階段になっています。そのため登りやすい反面、下山時には膝への負担が想像以上に大きくなることも。膝に不安がある方は、登山用ポールの持参をおすすめします。

もうひとつの特徴として、登山道が約500メートルごとに休憩スポットが設けられており、トイレなどの施設も整っているため安心して登山を楽しむことができます。
標高2,700mまで快調なペースで進行

登山を始めて約4時間、4キロ地点手前の休憩ポイントに到着しました。ちょうど昼時だったので、受付でもらったランチボックスをここでいただくことにします。
中身は、サンドウィッチ、バナナ2本、ゆで卵2個、カステラ、スニッカーズ、オレオ、そしてオレンジジュース。正直なところ、少し多いかなとも感じましたが、おそらく行動食も兼ねた構成なのでしょう。

ランチをとりながら周囲に目をやると、数匹のリスが元気に駆け回っていました。彼らの正式名称は「ボルネオカオナガリス」。その愛らしい姿は、登山者たちにとってちょっとした癒しとなる存在のようです。

標高はすでに2,700メートルを超えたあたり。雨も降りはじめ、疲れもあって気持ちがやや沈みがちになってきました。そんな空気を察してか、ガイドのサイグルさんが売店で買っておいたコーヒーキャンディーを手渡してくれました。さすがガイド歴22年のベテラン。絶妙なタイミングで、私と息子をそっと元気づけてくれたのです。

その後、登山道を進んでいると、サイグルさんが手招きして少し脇道に案内してくれました。そこで目にしたのは、なんと食虫植物のウツボカヅラ。
日本でも見かけることはありますが、キナバルに自生するものは一回りも二回りも大きく、生命力に満ちた姿に圧倒されます。キナバル国立公園の豊かな自然を象徴するような光景でした。
標高3,300mの山小屋で一泊

登り始めてから約7時間、ようやく本日の宿泊地であるラバンラタ・レストハウスに到着しました。
標高は3,300メートルで、富士山の八合目付近とほぼ同じ高さです。到着時はあいにく霧に包まれており、周囲の景色はほとんど見えませんでした……。本来ならキナバル山の雄大な姿が望めるはずなのですが、それは明日のお楽しみに取っておきます。

山小屋に到着後、まずはレセプションでチェックインを済ませます。今回は4人部屋のドミトリーを選びました。もちろん個室もありますが、人気が高く予約がすぐに埋まってしまうため、希望する場合は早めの手配が必要です。

ドミトリーとはいえ、2段ベッドが設置されており、日本の山小屋と比べるとかなり快適です。同室の登山客もマナーが良く、気持ちよく過ごすことができました。
標高3,300メートルの山小屋ながら、シャワー設備も備わっていました。ただし水シャワーのみなので、浴びる際には少し工夫が必要かもしれません。筆者と息子は風邪を引くのが心配で、今回は利用を見送りました。


夕方を過ぎると、リビングフロアではビュッフェスタイルの夕食が始まります。山小屋とは思えないほどしっかりとした内容で、まるで平地のホテルのディナーのよう。
標高3,300メートルでこんな本格的な料理が味わえるとは、キナバル山の山小屋には本当に驚かされます。
登頂準備のパッキング、そして学校の宿題

夕食を終えると部屋に戻り、翌朝のキナバル山頂アタックに向けて準備を始めます。アタック後には再びこの山小屋に戻ってくるため、荷物は必要最低限に。防寒着、ヘッドライト、水、行動食をリュックに詰めておきます。
その間、息子はというと、標高3,300メートルの山小屋で春休みの宿題に取り組んでいました。なんとも頼もしい光景というか普段の家のようなので緊張はないようです(笑)。
歯磨きを済ませたら、18時には就寝。登頂開始は翌朝2時半。いよいよキナバル山の頂きを目指します。
午前2時半、山頂アタック開始!標高4,095mへ

夜中1時半に起床し、軽食をとって登山再開。周囲の登山者たちと一緒に暗闇の道を進みます。
いよいよ親子2人で暗闇のキナバル山へと挑みます。
ヘッドライトの灯りの中を進む

夜の登山はヘッドライトを灯しながら進んでいきますが、周囲には多くの登山者とガイドがいるため、不安を感じることはありません。あちこちからさまざまな国の言葉が聞こえてきて、むしろ賑やかで心強く、寂しさとは無縁です。
ふと足を止めて振り返ると、眼下にはラナウの街の夜景が広がり、見上げれば満天の星が輝いています。幻想的な光景の中、息子の体調を気にしてときおり声をかけましたが、元気そうで安心しました。

登り始めてから約2時間、最終チェックポイントに到着しました。ここではIDカードを提示して通過します。標高はすでに3,660メートル。富士山の標高まで残すところわずか100メートルです。
そしてこの先は、筆者も息子もこれまでに踏み入れたことのない、未知の領域、標高4,000メートルの世界が待っています。

チェックポイントを越えると、いよいよ森林限界を超えます。これまで鬱蒼と茂っていたジャングルの木々は姿を消し、キナバル山の象徴ともいえる花崗岩の岩場が山頂に向かって広がっていきます。まさに、大自然のジャングルから一転して、まったく異なる風景が眼前に現れるのです。

夜が明け始める頃、青みを帯びた岩肌が次第に浮かび上がり、その幻想的な光景は、まるで別の惑星に足を踏み入れたかのような錯覚すら覚えさせてくれます。


岩場に出ると、あとはひたすらロープを頼りに頂上を目指して進んでいきます。すでに標高は4,000メートル付近。富士山の高さを超えた世界に足を踏み入れています。
息子の決意とガイドのサポート
息子は「登っては休む」の繰り返し。高山病の症状こそ見られないものの、空気が薄いことを身体で実感しているようで、すぐに息が上がり、疲れも見え始めています。
筆者:体調が悪いなら、無理せずここでやめてもいいぞ……?
息子:……自分に負けたくない!!!
その言葉に、思わず胸が熱くなります。
ガイドのサイグルさんも筆者に「ザックを持とうか?」と声をかけてくれましたが、「息子が頑張ると言っている」と伝えると、彼は笑顔で「ファイティング!」と息子に声援を送ってくれました。
頂上までは、あともう少しです。

頂上が見えていても、標高4,000メートルの薄い空気の中ではなかなか前に進まないように感じます。
キナバル山の頂上は、そそり立つ尖った岩場の上にあり、足元もゴツゴツとした不安定な地形が続きます。ガイドのサイグルさんのサポートを頼りに、一歩一歩慎重に進んでいきます。

そしてついに、山小屋を出発してから約4時間で東南アジア最高峰、キナバル山4,095メートルへの登頂に成功しました!
これまで見えなかった山の反対側の風景や、ボルネオ島全体の雄大なパノラマが広がり、親子ともに言葉にならないほどの達成感に包まれました。
頂上には多くの登山客が集まっていたため、サイグルさんにお願いして2人の記念写真を撮影してもらい、名残惜しさを感じながらも素早く下山を開始します。後ろには長い列が続いていたため、ここは譲り合いの精神で頂上のスペースを次の登山者に託すことにしました。

登ってきた雄大な岩場の景色を背に下山を始めると、ふと途中で苦しそうに登っていた息子の姿が脳裏に浮かび、思わず涙がこみ上げてきました。ほんの少しでしたが、抑えきれず頬を伝いました。
こうして2人で無事に登頂を果たせたのは、何よりガイドのサイグルさんの力があってこそです。頂上の壮大な風景を背景に、親子で感謝の気持ちを伝え、そのまま息子とのツーショットを撮影しました。
マレーシアで親子キャンプ&登山は、かけがえのない体験だった
再び山小屋へ、そして下山へ
頂上付近を出発してから、およそ8時半には山小屋へと戻ってきました。ここで朝食をとり、ひと息ついたら下山の準備を整えます。
帰り道もまた、果てしなく続く“階段地獄”が待ち構えていました。

息子は体重も荷物も軽いため、ひょいひょいと軽快に下っていきますが、こちらはカメラ機材を背負っている分、荷物もそこそこあり、終盤には膝にじわじわと疲労が蓄積されてきます。
それでもなんとか14時には登山口まで戻ることができました。深夜2時半から動き続け、実に12時間近くにおよぶ行動で、さすがに体力を大きく消耗しました。

下山後は受付センターで、2人そろって「登山証明書」を受け取りました。ラフレシアやウツボカヅラ、リスのイラストが描かれた南国らしいデザインで、キナバル登頂の良き記念になります。有料ではありますが、登頂された方にはぜひ手にしていただきたい一枚です。
次回はキャンプ後編へ!
今回は、マレーシアでのキャンプ旅から東南アジア最高峰・キナバル山の登山レポートをお届けしましたが、いかがでしたでしょうか?
後編では、自然豊かなマレーシアのキャンプの魅力を、現地のキャンプ場を中心にご紹介していきたいと思います。どうぞお楽しみに!



