創業380余年の老舗から生まれた社内ベンチャー

松倉さんは現在、アウトドアオペラ株式会社の代表取締役として「G飯の素」をはじめとする調味料の開発・販売を手がけています。しかし、その経歴はとてもユニーク。
アウトドアオペラはヤマサ醤油の社内ベンチャーとして立ち上げました。1645年創業の老舗企業ですが、約380年の歴史の中で初めての社内ベンチャーだったんです
松倉さんはもともとヤマサ醤油で新商品の企画を担当する立場でした。本業の傍ら、個人的にInstagramでキャンプ飯の投稿を始めたところ、予想外の人気に。

Instagram @matsukuracamp
コロナ禍でテレワークになり通勤時間が空いたので、大好きなキャンプ飯の投稿を始めたんです。
すると想定以上にフォロワー数が増えていって、食品メーカーなど複数の企業から案件やインフルエンサーからのコラボの相談も来るようになったんです。そろそろ会社にちゃんと伝えないと、さすがにやばいなって……
松倉さんのフォロワー数は会社の公式アカウントを上回るほどに。そこで会社にアウトドア調味料の構想も含めて相談したところ、「応援してくれる方がいるコミュニティなんだから、そのなかで一生懸命やってみればいい」と背中を押され、社内ベンチャーの立ち上げへと踏み出すことになりました。
スパイスのマッピングから見つけた空白地帯

もともと「ほりにし」の大ファンだという松倉さん。そこから、さまざまなアウトドア調味料を研究し始め、独自のスパイスマッピングを作成。各スパイスの特徴や合う食材を整理していく中で、ある発見がありました。
スパイスマッピングを作っていく中で、肉に合うスパイスはたくさんあるのに、『ご飯に合うスパイス』が存在しないことに気づいたんです

この発見が、「G飯の素」誕生につながる重要な気づきでした。
そして、そのスパイスマッピングを持って、さまざまなスパイスメーカーを訪問。その過程で、青森県のニンニク生産者「よしだや」との出会いがありました。
よしだやのニンニクは青森の厳しい寒さの中で育つため、糖度が高くフレッシュな香りが強い。この香りを活かせないかと考えました
完璧なガーリックライスを追求した商品開発

松倉さんは「よしだや」のニンニクと出会ったことで、ガーリックライスの調味料の開発を決意します。しかし、ただのニンニク風味の調味料ではなく、キャンプで誰でも簡単に絶品ガーリックライスが作れる調味料を目指しました。
キャンプ場で作る料理って制約が多いんです。風があったり火加減が難しかったり……道具も全部揃ってるわけじゃない。その中でどうやったら美味しいものが簡単にできるか、そこがポイントでした
通い詰めて仲良くなったニンニク専門店「にんにくバル The Garlic Nakano」の中山シェフの協力も得て、何度も試作を重ねたそうです。


最終的にはキャンプイベントを開催して、100人以上の方に試食してもらいました。一口食べた瞬間のみなさんの笑顔と「うま!!」という反応を見て、『いける』と確信しましたね
社内ベンチャーとして直面する課題とやりがい

アウトドアオペラの松倉さんがお一人でがんばっているわけではありません。ヤマサ醤油のチームメンバーが商品開発を後押ししてくれ、“松倉さんの想い”に共感して一緒に進んでくれる仲間も多数いるそうです。
商品開発では、私がやりたいことを一緒に具現化してくれる“味づくり”のチームがあります。それ以外、SNSの運用や店頭ポップ、商品ラベル、カタログなどのデザイン業務、イベント出展、メディア対応まで、やることがたくさんあり日々時間に追われる毎日を過ごしています。
でも、ありがたいことにSNSやイベントを通じて出会った仲間が大勢サポートしてくれるので、なんとかやっています


社内ベンチャーとして活動するには当然売上目標も求められ、プレッシャーもありますと松倉さん。
現在は「G飯の素」、「Tスープの素」「黒アヒージョの素」と3つの商品をラインナップ。将来的には「◯◯の素」を「AからZまで」の商品展開を構想しているそうです。
G飯の素はガーリックライス、Tスープはトムヤムクン風。今後もアルファベットで商品を展開していって、いずれはコンプリートしたいです
キャンプ飯への情熱が生んだ「毎日投稿」の習慣

松倉さんの驚くべき点は、3年以上毎朝欠かさずキャンプ飯の投稿をInstagramで続けていること。しかも予約投稿ではなく、毎朝手動で行っているんだとか。
朝起きて、目を覚ますために朝シャンして、ドライヤーしながら編集して投稿してます(笑)。それが日課になっていますね。3年間、1日も欠かさず続けてます
ネタ切れにはならないのかと尋ねると「あまりないですね」と笑顔で答える松倉さん。キャンプ飯への情熱と創造性が尽きることはないようです。
アウトドア業界で働くということ

松倉さんにアウトドア業界で働くための心得を聞くと、「フィールドに行く時間を確保すること」と即答。
キャンプ用食品を扱っているので、一年の約半分はフィールドにいます。
春から夏前まではイベント出展で全国を行脚、夏から秋にかけては新製品のフィールドテストや撮影。体力勝負ですが、ストレスはまったくないですね

アウトドア業界で成功するには、自分の好きなことを仕事にするだけでなく、その魅力を多くの人に伝える努力も必要だと松倉さんは強調します。
製品を通して笑顔をつくるのが仕事ですが、その笑顔をつくるための仕事は決して楽しいだけじゃない。それでも、好きなことをやらしてもらっているので、その魅力を発信するためには未知なる挑戦にもチャレンジしていくことが大切です
焚き火マイスターの猪野正哉さんと共著。「焚き火メシの本」とは?

そんな松倉さんにとって新しい挑戦となったのが、レシピ本「焚き火メシの本」の出版です。
焚き火マイスターの猪野正哉さんとの共著で、難しい調理プロセスや面倒な“熾火作り”を省いた、焚き火を楽しみながら作る簡単レシピが詰まった一冊です。

松倉さんとは2年ほど前に知り合って、そのときに彼のキャンプ飯を見て『いつか一緒に本をつくりましょう』と、声をかけてたんです。それがひょんなことから実現して、この本ができました。
最大の特徴は、レシピ本なのに材料の分量が書かれていないこと(笑)(猪野さん)
『材料を見れば、できます』っていうメッセージでもあるんですけど、そこがある意味チャレンジというか、我々らしさですね(松倉さん)

表紙を飾るのは「醤油マシュマロ」。マシュマロに醤油を少しかけて焼くと、みたらし団子風の味わいに変わるという驚きのレシピ。
他にも「焼き氷」や「刺身の炙り」など、従来の焚き火料理の枠を超えた全60レシピを収録。料理が得意ではない人こそ必見のレシピ本になっています。
何よりも大切にしたのは手軽さ。キャンプにこの本を持っていってもらって、ある食材で同じような料理を作ってもらいたいですね(松倉さん)
ライスパブリッシング 焚き火メシの本