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引地央行さん

「海」カルチャーの仕掛け人が「山」へ転向。ただの趣味では終わらせない、引地央行さんの挑戦【アウトドアで働く人】

高尾山の麓にある「TAKAO MOUTAIN HOUSE(以下TMH.)」のプロデュースや、国立公園の課題解決を行うNational Park Solutions Inc.の取締役CMOを勤める引地央行さん。

幼少期から山側のアウトドアを楽しみ、現在は山側のカルチャーを精力的に発信。引地さんの生い立ちから現在のキャリアに至るまでの道のりを聞きました。

目次

アウトドアの原点――幼少期の自然との触れ合い

東京都日野市で育った引地さんは、幼少期から自然に恵まれた環境で育ちました。家には車がなく、移動は自転車が当たり前。近隣の秋川渓谷や高尾山、御岳渓谷、相模湖に足を運び、釣りや昆虫採取、川遊びに熱中していたそうです。

引地央行さん

特に幼少期の体験は僕の価値観の土台となっています。自宅の近所は牛舎の匂いが漂う場所で、東京なのに自然がすぐそこにある環境が本当に楽しかったですね。
自然の中で遊ぶ楽しさを覚えるだけでなく、限られた手段の中で、自分たちで工夫して楽しむ精神も育まれました

学生時代に培ったカルチャーセンス

高校時代、引地さんは2つのバンドに所属しギターに熱中。音楽を通じて新しい表現を学び、その後進学した専門学校ではデザインを専攻し、視覚的な表現方法を磨きました。

ストリートカルチャーやアートに触れ、自作のミックステープやジャケットデザインなど、多様な創作活動にも取り組みます。「音楽とアートが深く結びつく重要な時期」だったそうです。

引地央行さん

バンドやDJ活動がきっかけで、表現することが好きになりました。音楽だけじゃなく、デザインやストリートカルチャーの中に自分の感性をどう反映させるかを考えるようになったのが、この時期です

この頃から、単なる流行に留まらない、自分の感性を深く追求する姿勢が形成されていきます。バンドやDJ活動で得た「音楽を通じて自己表現する楽しさ」が、後のデザインやカルチャープロジェクトへの挑戦に影響を与えました。これが、彼のアウトドアカルチャー活動にも独特の個性をもたらしています。

グリーンルームでの15年――アウトドアとカルチャーの融合

専門学校を卒業後、レコードショップを経て引地さんはフェスや音楽イベントを運営するグリーンルームに入社。

そこでの15年間でデザインから営業、イベント企画まで幅広い業務に携わり、特にGREENROOM FESTIVALの立ち上げには深く関わりました。このフェスは、サーフィンや音楽、アートを融合させた日本初の試みとして注目を集め、業界に新たな文化を築いたことは御存知の通り。

2016年5月に横浜・赤レンガ地区野外特設会場にて開催された「GREENROOM FESTIVAL'16」の運営スタッフとの記念写真
2016年5月に横浜・赤レンガ地区野外特設会場にて開催された「GREENROOM FESTIVAL’16」の運営スタッフとの記念写真

グリーンルームでの仕事は、アウトドアの魅力を多くの人に届ける役割を果たしました。フェスだけでなく、雑誌や広告などの企画も手がけ、アウトドアを“かっこいいライフスタイル”として発信。この取り組みは、業界全体のイメージを一新するきっかけとなりました。
アウトドアとカルチャーの融合がこんなにも多くの人に響くとは思いませんでしたね

独立と新たな挑戦――山側カルチャーを広める

2019年、引地さんは母親の急逝を機に独立を決意。それまでのキャリアで培った経験を活かし、山側のカルチャーを都会的に洗練された形で発信しようと活動を開始しました。

グリーンルーム時代に仕掛けていた海側のカルチャーはどんどんと盛り上がっていくのに対して、山側は盛り上がっていないことに可能性を感じたそうです。

高尾山の「TMH.」

高尾山では「TMH.」を立ち上げ、地域に根ざしたアウトドア施設を運営。

Mountain States Tokyo」では山の写真を木材フレームで額装したアート作品を制作するなど、新しい山の楽しみ方を提案しています。

山の写真を木材フレームで額装したアート作品「Mountain States Tokyo」

山側カルチャーの魅力を引き出すためには、「自然の持つ美しさを最大限に表現することが不可欠」と引地さん。デザインやアートを通じて、都会の人々にとっても、山を身近に感じられる仕掛け作りに力を入れています。

山側の可能性は無限大です。自然の豊かさをもっとかっこよく、都会的にアピールできるはず。アウトドアがただの趣味ではなく、文化として昇華できるよう取り組んでいます

National Park Solutions Inc.――自然保護と地域活性化の架け橋

現在、引地さんは国立公園を中心に地域の魅力を発信する「PARKS PROJECT」に注力しています。

引地央行さん

PARKS PROJECTは国立公園を守るためにアメリカで始動したブランド
売上の一部を生息地の復元など持続可能な自然維持や公園の運営のために寄付するECOブランドで、各国立公園をイメージしたデザインのプロダクトを展開し、寄付貢献とともに環境保全を目的としたボランティア活動も行っています

引地さんが取締役CMOを勤めているNational Park Solutions Inc.では、日本の国立公園が抱える課題である自然環境保護と利用推進、ブランディングを担当。

目下、力を入れているのが地域と連携したコンクリート基礎の代替となる“腐らない木”の開発です。

引地央行さん

国立公園をはじめとする自然環境や生態系を守るため、基礎素材を木製化したいと考えています。今まで使われているコンクリートの基礎って環境負荷がすごく高いので、パートナー企業と一緒に、木製基礎材を開発しています。
地元の資源を活用することで森林循環の促進を目指せますし、環境負荷の低減とともに、地域産業の活性化にもつながるはず。国立公園を世界的な観光資源として再定義する重要な一歩だと考えています

引地央行さん

この取り組みは、日本のアウトドア産業全体においても画期的な試み。環境保護と経済の両立を目指し、引地さんは地域との連携を重視しているとのこと。

木製基礎材は軽量で取り扱いやすいという利点もあります。こうした取り組みを国立公園に活かし、日本が誇れる世界的な価値にしたいですね

若い世代と未来へのメッセージ

アウトドアカルチャーを次世代へつなぐことも、引地さんの重要なミッションです。

地域コミュニティとの連携を重視し、新しい価値観を共有することで、若い世代がアウトドアに関心を持つ環境を整えることを目指しています。

引地央行さん

若い世代にアウトドアの魅力を伝えることは、単なる趣味としての提案ではありません。それは、自然と地域社会の重要性を次世代へ繋げるという壮大な目標です
アウトドアは、自然と社会をつなぐ橋渡し役だと思うので、若い世代にはもっとこの魅力を知ってもらい、一緒に新しい文化を作ってほしいですね。未来を見据えた挑戦を続けるのが、僕の使命だと思っています