編集部がアイテムを厳選!!CAMP HACK STORE
荒井裕介著『サバイバル猟師飯』から教わる熊・鹿レシピ

【連載Part.1】荒井裕介著『サバイバル猟師飯』から教わる熊・鹿レシピ

CAMP HACK×荒井裕介氏のサバイバル連載第1回! 山岳写真家の荒井裕介著『サバイバル猟師飯』に掲載されているレシピを、5回に分けて紹介します。今回は「熊」と「鹿」のレシピ。レシピを通じて、自然の恵みに触れていきましょう。※『サバイバル猟師飯』に掲載される内容を一部抜粋してご紹介します。

本ページはアフィリエイトプログラムを利用しています。

目次

文/荒井裕介

熊は、自然が与えたうまさが凝縮している

熊肉と言われると、野性味溢れる印象を抱きがちである。実際は脂身から肉に至るまで、市販の家畜の肉にひけをとらない旨味を持つ。部位によっては獣の臭いがすると言う人もいるが、それはどの動物にも当てはまることである。脂はさらっとしていて、肉は熟成させれば柔かくなり旨味が濃い。

部位ごとに向く調理法があるのだが、どの部位も極上の味わいがある。それは森が豊かである証拠なのだろう。木の実を豊富に食べて冬眠を迎え、春には山菜や草花を食べる。熊は森の美食家でもある。そんな美食家の肉の香りは、森の香りと言っていいのではないか。食べればきっと、病みつきになる。
熊の部位画像 17_2

イラスト/成瀬洋平

①ホホ
咀嚼をする際にほかの部位より動く部分なので、肉質は締まっている。霜降り的な脂があり、旨味が強い
②肩ロース(背ロース)
背ロースのなかでは、ネックの次に脂が分厚い部位。肉質は柔らかく、味わい深い
③ネック(背ロース)
ネックは背ロースの部位のなかでもっとも脂が分厚い。歯応えもしっかりしている
④ロース(背ロース)
一般に背ロースとはこの部位を指す。ロースのなかで一番赤みと脂のバランスがとれた部位
⑤内ロース
腹部にある内転筋でとても柔らかく旨味が強いのが特徴。一頭からわずかしかとれない稀少部位
⑥リブ
バラ肉のこと。厚みのある脂を含み、弾力と歯応えのある肉質。煮込むと柔らかく解けるような肉質が特徴
⑦トモバラ
バラ肉の一部。ハラミと言った方がわかりやすいだろう。脂と肉のバランスがよく、焼き肉向き
⑧モモ
筋肉がよく発達した部位で、肉自体に脂は少なくしつこくない。他の部位と比べると固い
⑨スネ
熊は物を掴むことができるため、よく発達している。スジ肉が多く、煮込み料理に適している

熊のレシピ紹介! 熊の行者ニンニク焼肉

熊の行者ニンニク焼肉
香りがしっかりとした食材は熊肉との相性抜群。
行者ニンニクも熊肉と合わせてみてほしい食材のひとつだ。

材料/2人分
熊のバラやロース肉……200g
ショウガ……一かけ
刻んだ行者ニンニク……大さじ2~3
バター……大さじ1
塩……小さじ1
胡椒……ひとつまみ
ドライガーリック……小さじ1
ウイスキー……小さじ1
醤油……小さじ1

作り方

熊の行者ニンニク焼肉作り方1
①熊肉を適当な大きさに切る。
熊の行者ニンニク焼肉作り方2
②千切りのショウガと行者ニンニクを加え和える。
熊の行者ニンニク焼肉作り方3
③熱したフライパンにバターを溶かす。
熊の行者ニンニク焼肉作り方4

④ ②で下ごしらえした肉と塩、胡椒、ドライガーリックを加える。
熊の行者ニンニク焼肉作り方5
⑤ウイスキーを加えフランベする。
熊の行者ニンニク焼肉作り方6
⑥仕上げに醤油を加えれば完成だ。

熊が好む食材ならば熊肉との相性はいいはず

肉との相性はもちろん、豆腐との相性も抜群の行者ニンニク。僕は夏の間に山中で収穫したり、知人が栽培しているものをもらい、刻んで冷凍保存している。山中だけでなく自宅でも大活躍してくれる食材だ。

以前、釣りをしながら沢を登っていると、どこからともなくニンニクのいい香りが漂ってきたことがあった。最初は先行者が料理でもしているのかと思っていたが、見通しのいい平場に出たとき、それが行者ニンニクの香りだと気がついた。しかも、そこは熊が食事をした直後のようだ。そのため、少し離れた場所まで香りが漂ってきたのだろう。熊の食べ残しを少しだけいただき、その場を離れた。その時、行者ニンニクは熊にとってもうまい山菜なのだと初めて知った。熊が好んで食すのであれば、熊の肉料理にこの食材が合わない訳がないと勝手に納得したのだった。

その年の冬、熊狩りをする際に行者ニンニクをザックに忍ばせて猟に向かった。単独の熊猟が初めてだった僕は、いまひとつ勝手がわからないまま、石切り場跡の岩屋が見渡せる場所に座り、パンをかじりながら猟場を見渡していた。一瞬何かと目が合ったような気がした。もう一度視線を戻し、さっきよりはゆっくりと視線を動かすと、岩屋とは呼べないほどの小さな穴から熊が一頭こちらの様子を伺っていた。

どう捕らえるかあれこれ思いを巡らせていると、熊がゆっくりと穴から出てくるではないか。「えっ! 出てくるの?」と思いながら、熊に照準を合わせた。熊は得体の知れない人間を前に、その場から離れたかったのだ。穴から全身が出ると逃げの体勢に入ったのだが、なんとかそれを仕留めることができた。これで、行者ニンニクの瓶詰めを運んできた甲斐があったというもの。やはり、僕の想像通り、熊肉と行者ニンニクの組み合わせは最高だった。

行者ニンニクのメリットは、調理の際に混ぜるだけでその風味を活かせることだ。とくに熊の焼き肉に使うと絶品である。熊の脂との相性は抜群によく、ニンニクの香りが食欲を誘う。あとは塩、胡椒と香り付けの醤油、ウイスキーがあれば、いつもよりどんどん箸が進む。脂の甘さと、行者ニンニクの香りが口一杯に広がり、数ある肉料理のなかでも白飯との相性は一番ではないかと思っている。

鹿肉は部位ごとにさまざまな調理の楽しみ方ができる、まさに獣肉の代表的存在だ。

脂身が少なく高タンパクなアスリート向け食材

鹿肉自体に脂はほとんどなく、さっぱりとしている。大型の獣のなかではもっとも脚が長く、華奢な動物である。スネにはほとんど肉はなく、肉質はほぼ赤身肉。低脂肪高タンパクなので、体を作るには最適だ。干し肉や燻製にも適しており、さまざまな食べ方ができる万能食材でもある。

近年は生息数が増えたこともあり、ハムやソーセージなどの加工品として流通している。栄養価もさることながら、味もお墨付きのジビエの代表的存在だ。雄と雌の味が顕著に違うのも特徴。雌は臭みが少なく、雄は野性味ある香りがする。3歳以上の雄でも繁殖期以外ならば、比較的臭みは少なく食べやすい。

鹿の部位画像 15002

イラスト/成瀬洋平

①タン
ジビエのなかで鹿のタンが一番柔らかいかもしれない。厚切りにしても食べやすい
②ネック
タテガミ部分は脂が豊富でとても柔らかい。背ロースの一部のようだが、別部位だ
③サーロイン
背ロースの付け根あたりの部位。柔らかくバランスがいい。鹿ステーキでお馴染み
④内ロース
内転筋は柔らかくねっとりしていて味わい深い。鹿肉のなかで、もっとも稀少とされる
⑤ランプ
お尻の肉だがモモとは別に扱われる。脂身が少なく柔らかい。とれる肉の量も多い部位
⑥ハツ
心臓のこと。焼くと歯応えがあり、とても美味。生でも食べることはできる
⑦肩ロース(背ロース)
背ロース周辺部のなかでも脂が多い部位。ネックとリブロースの中間にあり、柔らかい
⑧レバー
肝臓。横隔膜付近にあり、濃厚で鉄分豊富。炒め物などの用途に使うと、よく合う
⑨肩バラ
肩とアバラをまたぐようについている。バラほどの脂分はなく、赤身の多い部位だ
⑩トモバラ
ハラミにあたる部位。鹿には少量しかないが、柔らかくうまい。焼き肉に最適
⑪リブロース(背ロース)
背ロースの中心部。鹿肉のなかでも脂と赤身のバランスが一番いい上質な部位
⑫ヒレ
バラとロースの中間にあり、脂が少なく柔らかい。どんな料理にも合う万能な肉質だ
⑬モモ
脂分は少なく、さっぱりとした肉質が特徴の部位。燻製や干し肉に適している
⑭スネ
スジが多く、コラーゲンが豊富なので、煮込み料理やしぐれ煮にするのがおすすめ

鹿のレシピ紹介! 鹿の猟師焼き

鹿の猟師焼き
会津マタギたちの宴会のメインディッシュがこちら。上質な部位こそ、シンプルな味付けでいただきたい。

材料/3人分
鹿の内ロース肉 ……300g
ショウガ ……一かけ
ニンニク ……一かけ
酒……大さじ3
醤油……大さじ1
砂糖……小さじ1
味噌……大さじ1
オリーブオイル……大さじ1

作り方

鹿の猟師焼き作り方1
① 鹿肉を適当な大きさに切る。
鹿の猟師焼き作り方2
② ショウガの皮を剥き、千切りにする。
鹿の猟師焼き作り方3
③ 器にショウガと鹿肉を入れ、すりおろしたニンニクを加える。
鹿の猟師焼き作り方4
④ 酒、醤油、砂糖、味噌を加え、よく和える。
鹿の猟師焼き作り方5
⑤ 熱したフライパンにオリーブオイルをひき、強火で焼き上げる。
鹿の猟師焼き作り方6
⑥ 味噌の焦げつきと肉の焼きすぎに注意しながら焼いたら完成。

肉の熟成具合や部位次第で味付けや焼き加減を変える

津マタギとシカ猟に向かったときのお話。この日は大猟で、群れでシカを発見し、計5頭を捕獲した。解体作業を進めつつ、かたわらに建つ倉庫では宴会の準備も進められた。千葉から彼らを訪ねて猟に加えてもらった僕は、手伝いをしようとあたりをウロウロするが、統制のとれたマタギチームの動きには一切の無駄がなく、新参者の入る隙はない。

内ロースや背ロースを、外したそばから倉庫に運んでいく。その後に続くと、時計型の薪ストーブの横で黙々と仕込みをしているマタギがいる。「味付けですか?」と聞くと、「この食い方が一番うまい」とだけ答えた。続けて、なにを入れているのかと尋ねると、「これだけだ」と無造作に置かれた調味料を見せてくれた。置かれていたのは、醤油、ショウガ、ニンニク、砂糖、味噌、油である。

「そんなに特別なもんは入れねーよ。まぜるだけだから」と言いながら、手際よくすべての調味料を目分量で入れていく。本書ではオリーブオイルを使用しているが、この時はサラダ油を使っていた。時計型薪ストーブの上に大きめのフライパンを置き、解体作業を終えたものから順に、それぞれが肉を好きなだけ入れて焼き始める。なんとも豪快な男飯だ。

カンジキを履いて雪山をかけ回っていたせいか、僕も腹がペコペコだった。その分を差し引いてもうまい。濃いめの味付けと言っていたが、これは不思議と飽きがこない。むしろ淡白な鹿肉には、味噌ベースの濃いめの味付けがよく合うのだ。ショウガとニンニクの香りと、焦げた味噌の香りがたまらない。

内ロースは猟師の特権だ。ほかのどの部位よりもうまいが、一頭からほんの少ししかとれない。シカを焼く時、とくにいい部位を焼く時には決して焼きすぎないこと。これ、調理の鉄則。焼き加減は、少し赤みが残る程度がちょうどいい。

この日は宿をとっていたのだが、旅館で夕飯が食えないほど箸が進んでしまった。シカを食べるなら、ロースの焼肉は外せない。解体したてで熟成していない肉は火を通すと硬くなってしまいがちなので、焦げつく前に火から上げてしまうくらいで丁度いい焼き加減になる。

鹿肉は、熟成の進み具合を考慮して、焼き加減と味付け、さらには調理法までを使い分ける必要がある。鍋一杯にあったシカ肉は、あっという間にみんなで平らげてしまった。

 

獲物の生態も掲載。荒井裕介著『サバイバル猟師飯』はこちら! 

CAMP HACK×荒井裕介氏の連載はこちら